1ուր 2ուրեմն 3ապրեալք 4ի 5ծփանացն՝ 6արշաւանս 7դնեն 8յիւրաքանչիւր 9գաւառս։
番号は下の「逐語分析」「構造図」の番号と対応する。
「そしてようやく、波濤を逃れおおせて、彼らは各地方へ赴く。」
Ur uremn aprealkʿ i cpʿanacʿn, aršawans dnen yiwrakʿančʿiwr gawaṙs.
| No. | 語形 | Romanize | 品詞・形態 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | ուր | ur | 副詞/接続的副詞;2 と ուր ուրեմն を形成 | ついに、そこで |
| 2 | ուրեմն | uremn | 小辞・接続的副詞;1 と結ぶ | ようやく、ついに |
| 3 | ապրեալք | aprealkʿ | ապրել / ապրիմ 系の過去分詞・主格複数;後続の7と同じ暗黙の複数主語をもつ副詞的分詞用法 | 生き延びて、逃れおおせて |
| 4 | ի | i | 前置詞;5 と結び起点・離脱を表す | ~から |
| 5 | ծփանացն | cpʿanacʿn | ծփանք「波立ち、うねり、波濤」・奪格複数・定 | 波濤から、うねりから |
| 6 | արշաւանս | aršawans | արշաւան・対格複数;7 と定型結合 արշաւանս դնել を形成 | 駆行、行程 |
| 7 | դնեն | dnen | դնեմ・直説法現在3人称複数 | արշաւանս դնել で「赴く、進む」 |
| 8 | յիւրաքանչիւր | yiwrakʿančʿiwr | յ- = ի;իւրաքանչիւր「各々の、各」 | 各々の、各 |
| 9 | գաւառս | gawaṙs | գաւառ「地方、州」・対格複数;8の յ- とともに移動方向 | 各地方へ |
[1–2] ուր ուրեմն
「ようやく/ついに」
│
↓
[3–5] ապրեալք ի ծփանացն
「波濤を逃れおおせて」
過去分詞・主格複数
副詞的分詞用法
│
└───────────┐
│ 同じ暗黙の主語
↓
Ø = 航海者/商人たち
│
↓
[6–7] արշաւանս դնեն
「赴く」
│
└─[8–9] յիւրաքանչիւր գաւառս
ի/յ + 対格複数
「各地方へ」
「そしてようやく、波濤を逃れおおせて、
彼らは各地方へ赴く。」
第三文では、荒れ狂う波が「山」と「平地」のように上下し、その運動が詩篇103:8の「上って山となり、下って平地となる」という言葉に重ねられた。第四文は、その激しい描写の直後に置かれた短い転換文である。
3–5 ապրեալք ի ծփանացն「波濤を逃れおおせて」は、直前まで描かれていた海上の危険から脱することを表す。ապրիմ には「生きる」のほか、「危険から逃れる、助かる」という用法があり、ここでも単なる生存より波濤からの脱出が前面に出る。
その直後の6–7 արշաւանս դնեն は一まとまりの運動表現である。արշաւան は軍事的な「襲撃・遠征」にも用いられるが、ここでは航海者・商人たちが波濤を逃れたのち、9 գաւառս「諸地方」へ向かう。したがって日本語では、過度に軍事的な響きを避けて「各地方へ赴く」とした。
海上:
ծփանք
「波濤」
↓
ապրեալք
「逃れおおせて」
陸上・交易圏:
արշաւանս դնեն
「赴く」
↓
յիւրաքանչիւր գաւառս
「各地方へ」
次の第五文では、彼らが自分たちの経験を親しい者たちに「物語る」。第四文は、荒海の描写から、各地を巡る交易者としての活動、さらに生還後の語りへと場面を渡す橋になっている。
辞書は ուր ուրեմն を一まとまりとして掲げ、「ついに、最後には」、文脈によっては「かろうじて」に近い意味を示す。
ヨブ3:1にも次の例がある。
Եւ ապա ուր ուրեմն Յոբ եբաց զբերան իւր... 「そしてその後、ついにヨブは口を開き……」
第四文でも、激しい波の描写の後に「波濤を逃れおおせる」と続くため、ուր ուրեմն は「ようやく/ついに」と読むのが自然である。
なお第三文も ուր「そこでは」で始まるため、
第三文 ուր ... 第四文 ուր ուրեմն ...
という語の反復には、前文とのつながりを響かせる効果も感じられる。ただし、ここでは ուր ուրեմն というまとまりの意味を基本とする。
3 ապրեալք は過去分詞の主格複数である。後続の7 դնեն「彼らは赴く」は3人称複数で、表面上の主語名詞は置かれていない。そのため、両者が前文から続く同じ航海者・商人たちを主語とすると考えられる。
Ø ապրեալք ... Ø դնեն 「逃れおおせて、彼らは赴く」
使徒28:1には非常に近い例がある。
Եւ ապրեալք յայնժամ գիտացաք... 「そして逃れおおせて、その時われわれは知った……」
ここでも過去分詞 ապրեալք と後続の定動詞が同じ複数の主体を共有している。
したがって第四文の ապրեալք も、形態としては過去分詞・主格複数、文中では「~して」と主節に先行する出来事を表す副詞的分詞用法と理解できる。
ծփանք は「波立ち、うねり、波濤」を表す語で、ծփանացն は複数斜格の定形である。
HMB2018 §156 は、ի/յ が与格・対格・奪格と結び、それぞれ異なる関係を表すことを説明する。ここでは ապրեալք「逃れおおせて」と組み合わされ、「波濤から逃れる」という離脱・起点を表すため、ծփանացն は奪格複数・定とみる。
ապրեալք ի ծփանացն 「波濤から逃れおおせて」
6 արշաւանս を単独で「遠征を」と訳すだけでは、この句の意味を捉えにくい。
GHAZ2012 は ԱՐՇԱՒԱՆՍ ԴՆԵԼ を一項目として立て、本箇所、
արշաւանս դնեն յիւրաքանչիւր գաւառս 「彼らは各地方へ赴く」
を用例に挙げる。別の用例では海上を勢いよく進む意味にも用いられており、移動の勢いを含む表現である。
この文では商人たちの移動なので、試訳では中立的に「赴く」とした。
յիւրաքանչիւր の語頭の յ- は前置詞 ի の異形である。HMB2018 §156 は ի/յ + 対格に移動方向の用法を認める。
同じアガタンゲロスには、たとえば次のような運動表現がある。
ասպատակ դնել ի կողմանս Պարսից 「ペルシアの地方へ侵攻する」 արշաւել ի կողմանս Ասորեստանի 「アッシリアの地方へ進軍する」
第四文の գաւառս も対格複数とみて、「各地方へ」という方向句を作る。
また、իւրաքանչիւր は古典期には不変化的に用いられることがあり、聖書にも、
յիւրաքանչիւր տեղիս 「それぞれの場所へ/各所へ」
のように複数名詞と結ぶ例が見られる。
「ついに/ようやく」。ここでは直前までの荒波を切り抜けた到達点を示す。
「駆ける、勢いよく進む、赴く」。文脈によって軍事的な「遠征・襲撃」にも広がるが、第四文では商人・航海者の移動として「赴く」とした。