1ընդ 2մեծանալ 3վաճառացն 4փոխանակեն 5զինքեանս։
番号は下の「逐語分析」「構造図」の番号と対応する。
「商いが大きくなるにつれて、彼らは自分自身を引き換えに差し出す。」
1–3 ընդ մեծանալ վաճառացն は、前置詞+不定詞による時間的・副詞節的な構文である。日本語では文脈に合わせて「商いが大きくなるにつれて」とした。4–5 փոխանակեն զինքեանս は直訳すると「彼らは自分自身を交換する/引き換えにする」。ここではその語義の核を残し、「身を賭ける」という含意は本文読解で説明する。
Ənd mecanal vačaṙacʿn pʿoxanaken zinkʿeans.
| No. | 語形 | Romanize | 品詞・形態 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | ընդ | ənd | 前置詞;2 不定詞と結び副詞節相当の構文を作る | ~するとき、~する間;ここでは「~するにつれて」 |
| 2 | մեծանալ | mecanal | մեծանամ の不定詞 | 大きくなる、増大する、増える |
| 3 | վաճառացն | vačaṙacʿn | վաճառ「商い」・属格複数・定;2 մեծանալ の論理主語 | 商いが |
| 4 | փոխանակեն | pʿoxanaken | փոխանակեմ・直説法現在3人称複数 | 交換する、引き換えにする |
| 5 | զինքեանս | zinkʿeans | ինքն 系の再帰代名詞・対格複数;4の目的語 | 自分自身を、自らの身を |
[1–3 前置詞+不定詞構文]
ընդ մեծանալ վաճառացն
「商いが大きくなるとき/につれて」
│
│ 時間的・状況的付加
▼
[4–5 主節]
Øᵢ փոխանակեն զինքեանս
「彼らᵢは自分自身を引き換えにする」
│
└─目的語────> [5] զինքեանս
「自分自身を」
════════ 1–3 の内部構造 ════════════════════════════
[1] ընդ
│
└─不定詞────> [2] մեծանալ
「大きくなる/増大する」
│
└─論理主語(属格)
└────> [3] վաճառացն
「商いが」
════════ 4–5 — 直訳と文脈的含意 ═══════════════════
[4] փոխանակեն
「交換する/引き換えにする」
│
└─目的語────> [5] զինքեանս
「自分自身を」
直訳の核:
「彼らは自分自身を引き換えにする」
文脈的含意:
「彼らは自らの身を差し出す/身を賭ける」
第五文は、航海者・商人たちについて գրաւական եդեալ զանձինս「自分たち自身を担保として置き」、さらに死を競いの終点として置く、と描いた。第六文はその直後に、同じ自己危険化の像を商い・交換の語彙で言い直す。
1–3 ընդ մեծանալ վաճառացն は、「商いが大きくなるとき/商いが膨らむにつれて」という時間的・状況的な付加節である。վաճառ は一回限りの売買だけでなく、「商い・交易」という継続的な活動を表すことができる。
それを受ける4–5 փոխանակեն զինքեանս は、語の上では「彼らは自分自身を交換する/引き換えにする」となる。しかし փոխանակեմ には、物品の交換だけでなく、人が自分自身や生命をあるものの代価として差し出す用法もある。
アガタンゲロス自身の§13には、明瞭な平行例がある。
զանձինս իւրեանց փոխանակեցին ընդ Աստուծոյ ճշմարտութեանն 「彼らは神の真理のために、自分自身を代価として差し出した」
このため第六文の փոխանակեն զինքեանս も、単なる商業的な「交換」にとどまらず、利益を求める航海に自分自身を代価として差し出す、すなわち身を賭けるという含意を持つと考えられる。
ただし本文には、§13の ընդ Աստուծոյ ճշմարտութեանն「神の真理のために」のように、「何と引き換えにするか」を明示する語句はない。そのため試訳は、
「自分自身を引き換えに差し出す」
という直訳寄りの形を保ち、「身を賭ける」という意味は本文読解で示した。
第五文と第六文は、単純に危険が一段ずつ増してゆくというより、同じ主題を別の語彙で重ねている。
第五文 自分自身 = 担保 死 = 競いの終点 第六文 自分自身 = 引き換えに差し出すもの
利益を得るための商いが、ついには自分自身を代価にするほどの危険を伴うという逆説が強く表現されている。
BAG1852 §568は、ի・ընդ と不定詞の結合が、時間・同時性・条件・理由などを表す副詞節に相当しうることを説明し、たとえば次の例を挙げる。
Ընդ երթալն նորա ... 「彼が行くとき/行っている間……」 Ընդ խօսելն նոցա եւ ընդ վիճել ... 「彼らが話し、論じている間……」
JEN1959 §493も、前置詞+不定詞からなる句が副詞的従属節に相当し、不定詞が独自の論理主語をもつ場合、その主語は通常属格に置かれると記述する。
したがって第六文は、
ընդ [մեծանալ վաճառացն]
大きくなる 商いの/商いが
不定詞 属格複数・定
と切ることができる。
վաճառացն は表面形だけでは複数斜格として複数の格機能がありうる。しかし մեծանալ「大きくなる、増大する」は自動詞であり、意味上も「商いが増大する」という主語関係になるため、ここでは属格の論理主語とみる。
文法的な核は、
「商いが大きくなるとき」 「商いが増大する間に」
である。試訳の「商いが大きくなるにつれて」は、この時間的関係を文脈に合わせて自然な日本語にしたもので、ընդ そのものが厳密な比例関係を表すという意味ではない。
4 փոխանակեն は փոխանակեմ の現在3人称複数で、5 զինքեանս「自分自身を」を対格目的語に取る。
Øᵢ փոխանակեն զինքեանս 「彼らᵢは自分自身を交換する/引き換えにする」
主語は、第五文から続く航海者・商人たちとみるのが自然である。
語義については、辞書資料が「自分自身・生命をあるもののために差し出す」方向の用法を示し、先に挙げたアガタンゲロス§13もこれを裏づける。そのため、統語そのものは単純な「動詞+対格目的語」でありながら、文脈上は「自らの身を代価にする」という強い意味を帯びる。
固定した語彙慣用句ではなく、生産的な文法構文である。第六文では ընդ մեծանալ վաճառացն 全体で時間・同時性を表し、「商いが大きくなるとき/につれて」となる。
独立した一つの固定成句とする必要はないが、փոխանակել が ինքն・անձն 系の「自分自身」を目的語に取り、「自分自身を代価として差し出す」という用法は辞書資料と作者内平行例に確認できる。