アガタンゲロス『アルメニア人の歴史』 §1 第七文
原文
1զի 2թէպէտ 3եւ 4տեսանիցեն 5զբռնութիւն 6սաստկութեան 7հողմակոծեալ 8ալեացն 9տատանելոց, 10որ 11յերփն 12երփն 13զերանգսն 14շրջշրջեն 15ըստ 16սաստկութեան 17ծփանացն, 18դիզադէզ 19յեղեղուկ 20փրփրացեալ 21զմիմեանց 22կարգեալ 23զկնի 24տողիցին, 25եւ 26յափնածիր 27յաւազադիր 28սահմանս 29բարձրացելոցն 30ընդդէմ՝ 31հասեալ 32ի 33ցամաքակէտն 34ծիծաղեսցին։
番号は下の「逐語分析」「構造図」の番号と対応する。
試訳
「というのも、たとえ彼らが、風に打たれ揺れ動く波々の猛烈な力を目の当たりにしても――その波々は、うねりの激しさに応じて色合いをさまざまに変え、幾重にも盛り上がって移ろい泡立ち、一つまた一つと順序立って列をなし、岸辺の砂地の境へ向かって高く立ち上がる――、それでも彼らは岸にたどり着くと、笑うのである。」
Zi tʿēpēt ew tesanicʿen zbṙnutʿiwn sastkutʿean hołmakoceal aleacʿn tatanelocʿ, or yerpʿn erpʿn zerangsn šrǰšrǰen əst sastkutʿean cpʿanacʿn, dizadēz yełełuk pʿrpʿracʿeal zmimeancʿ kargeal zkni tołicʿin, ew yapʿnacir yawazadir sahmans barjracʿelocʿn ənddēm՝ haseal i cʿamakʿakētn cicałescʿin.
| No. | 語形 | Romanize | 品詞・形態 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | զի | zi | 接続詞;前文を受けて後続の説明を導く | というのも |
| 2 | թէպէտ | tʿēpēt | 譲歩接続詞;3 եւ とともに4以下を導く | ~とはいえ、たとえ~ても |
| 3 | եւ | ew | թէպէտ եւ の一部 | ~であっても |
| 4 | տեսանիցեն | tesanicʿen | տեսանել・接続法第一未来・能動形3人称複数;譲歩節内 | 彼らが見る、目の当たりにする |
| 5 | զբռնութիւն | zbṙnutʿiwn | բռնութիւն・対格単数;4の目的語 | 力を、猛威を |
| 6 | սաստկութեան | sastkutʿean | սաստկութիւն・属格単数;7–9の句に限定され、5を修飾 | 激しさの;全体として「猛烈な」 |
| 7 | հողմակոծեալ | hołmakoceal | -եալ 過去分詞/形容詞的用法;8を前置修飾 | 風に打たれた、風に翻弄された |
| 8 | ալեացն | aleacʿn | ալիք「波」・属格複数・定 | 波々の |
| 9 | տատանելոց | tatanelocʿ | տատանեալ の過去分詞・属格複数;8と一致する後置分詞 | 揺れ動く、揺さぶられる |
| 10 | որ | or | 関係詞;8 ալեացն「波々」を受ける | それらは、その波々は |
| 11–12 | յերփն երփն | yerpʿn erpʿn | յ = ի の異形;ի/յ + 対格の様態的用法と反復表現 | 色とりどりに、さまざまな色合いで |
| 13 | զերանգսն | zerangsn | երանգ「色、色合い」・対格複数・定;14の目的語 | 色合いを、色彩を |
| 14 | շրջշրջեն | šrǰšrǰen | շրջշրջեմ・直説法現在3人称複数 | くるくる変える、変化させる |
| 15 | ըստ | əst | 前置詞;16を支配 | ~に応じて、~に従って |
| 16 | սաստկութեան | sastkutʿean | սաստկութիւն・与格単数;15 ըստ の補部 | 激しさに応じて |
| 17 | ծփանացն | cpʿanacʿn | ծփանք「うねり、波立ち」・属格複数・定;16を限定 | うねりの、波立ちの |
| 18 | դիզադէզ | dizadēz | 形容詞/副詞;20を中心とする様態描写の一部 | 幾重にも、堆く、盛り上がって |
| 19 | յեղեղուկ | yełełuk | յեղյեղուկ の異綴 | 移ろいつつ、変転しながら |
| 20 | փրփրացեալ | pʿrpʿracʿeal | փրփրամ / փրփրանամ の過去分詞 | 泡立って、泡を立てて |
| 21 | զմիմեանց | zmimeancʿ | 相互代名詞・属格複数;23 զկնի に支配され、分離配置された順序句を作る | 互いの、一つが他の |
| 22 | կարգեալ | kargeal | կարգեմ の過去分詞;24に様態・意味強化を加える | 順序立って、整然と |
| 23 | զկնի | zkni | 前置詞・副詞;21と結ぶ | 後に、一つまた一つと |
| 24 | տողիցին | tołicʿin | տողեմ・接続法第一未来・受動形活用3人称複数;意味上は「列をなす」 | 列をなす、連なって並ぶ |
| 25 | եւ | ew | 接続詞 | そして |
| 26 | յափնածիր | yapʿnacir | յ + ափնածիր;27とともに28を修飾 | 岸辺の、岸に沿った |
| 27 | յաւազադիր | yawazadir | յ + աւազադիր;26と並んで28を修飾 | 砂地の、砂を帯びた |
| 28 | սահմանս | sahmans | սահման「境、限界」・対格複数;26–27と方向句を作る | 境へ、岸の縁へ |
| 29 | բարձրացելոցն | barjracʿelocʿn | բարձրացեալ・過去分詞・属格複数・定;8 ալեացն と遠隔一致 | 高く立ち上がった、せり上がった |
| 30 | ընդդէմ | ənddēm | ここでは副詞的に29の運動方向・対向性を補う | 向かって、対して、ぶつかるように |
| 31 | հասեալ | haseal | հասանել の過去分詞;34と主語を共有する副詞的分詞 | 達して、到着して |
| 32 | ի | i | 前置詞;33と到達点を表す | ~へ、~に |
| 33 | ցամաքակէտն | cʿamakʿakētn | ցամաքակէտ「岸、海岸」・対格単数・定 | 岸へ、海岸へ |
| 34 | ծիծաղեսցին | cicałescʿin | ծիծաղիմ・接続法第二未来・受動形活用3人称複数;意味上は自動詞 | 彼らは笑う/笑うだろう |
════════ A. 文全体の外枠 ═══════════════════════════
[1] զի
「というのも」
│
└─説明
↓
[2–4] թէպէտ եւ տեսանիցեն ...
「たとえ彼らが……を目にしても」
譲歩節
│
│ 5–30 = 見る対象「波の猛威」の長い展開
│
▼
[31–34] հասեալ ի ցամաքակէտն ծիծաղեսցին
「岸に達すると、彼らは笑う」
│
├─[31–33] հասեալ ...
│ 「岸に達して」
└─[34] ծիծաղեսցին
「彼らは笑う」
主語:
Ø = 第五文–第六文 から続く航海者/商人たち
════════ B. 4 տեսանիցեն の目的語 ═════════════════════
[4] տեսանիցեն
│
└─目的語──> [5] զբռնութիւն
「力/猛威を」
│
└─[6] սաստկութեան
「激しさの」
│
└─[7–9] հողմակոծեալ ալեացն տատանելոց
「風に打たれ揺れ動く波々の」
自然な日本語:
「風に打たれ揺れ動く波々の猛烈な力を」
[8] ալեացն 属格複数・定
[9] տատանելոց 過去分詞・属格複数
↑ 格・数一致する後置分詞
════════ C. 10 որ が導く波々の関係節 ════════════════
[8] ալեացն
「波々」
│
└────> [10] որ
「それらは/その波々は」
│
├─[11–14]
│ յերփն երփն զերանգսն շրջշրջեն
│ 「色合いをさまざまに変える」
│
│ └─[15–17]
│ ըստ սաստկութեան ծփանացն
│ 「うねりの激しさに応じて」
│
└─[18–24]
├─[18–20 様態]
│ դիզադէզ յեղեղուկ փրփրացեալ
│ 「幾重にも盛り上がり、
│ 移ろいながら泡立って」
├─[21+23 順序]
│ զմիմեանց ... զկնի
│ 「一つまた一つと」
└─[22+24 述語]
կարգեալ ... տողիցին
「順序立って、列をなす」
════════ D. 25–30 — 遠隔の ալեացն を修飾 ════════════
[8] ալեացն 「波々の」
:
: 長い関係節を挟む
:
└──── [25] եւ
[26–28] յափնածիր յաւազադիր սահմանս
「岸辺の砂地の境へ」
│
└─[29] բարձրացելոցն
「高く立ち上がった」
│
└─[30] ընդդէմ
「向かって/ぶつかるように」
[29] բարձրացելոցն は
遠隔の [8] ալեացն と属格複数で一致する。
════════ E. 結末 ════════════════════════════════════
危険を見る:
տեսանիցեն զբռնութիւն ...
↓
波は色を変え、泡立ち、列をなし、岸へせり上がる
↓
それでも:
հասեալ ի ցամաքակէտն
「岸に達して」
↓
ծիծաղեսցին
「彼らは笑う」
第六文は、商いが大きくなるにつれて航海者たちが「自分自身を引き換えに差し出す」と述べた。第七文は、その行動が危険を知らない無謀さではないことを明らかにする。
1 զի は前文を受けて説明を続け、2–4 թէպէտ եւ տեսանիցեն は「たとえ彼らが……を目にしても」という譲歩節を作る。彼らが目にする5–30は、第二文・第三文から続いてきた荒海の猛威である。つまり彼らは、危険を十分に見ながら、それでも航海へ向かう。
5–9は、その「見るもの」を圧縮して提示する。
զբռնութիւն սաստկութեան հողմակոծեալ ալեացն տատանելոց
自然な日本語では、「風に打たれ揺れ動く波々の猛烈な力」となる。7–9 հողմակոծեալ ալեացն տատանելոց は「風に打たれ揺れ動く波々の」という一まとまりの属格名詞句である。
10 որ 以下では、その波々が再び運動主体となる。11–14では、波が զերանգսն「色合い」を յերփն երփն「色とりどりに/さまざまに」変える。15–17 ըստ սաստկութեան ծփանացն「うねりの激しさに応じて」がその変化を限定する。荒海は高さだけでなく、動くにつれて見え方や色合いまで絶えず変わるものとして描かれる。
18–24では、波の運動がさらに細かく積み重ねられる。
դիզադէզ յեղեղուկ փրփրացեալ 「幾重にも盛り上がり、移ろいながら泡立って」 զմիմեանց ... զկնի 「一つまた一つと」 կարգեալ ... տողիցին 「順序立って、列をなす」
ここには、無秩序な荒波でありながら、次々に列をなして岸へ押し寄せるという視覚的な像がある。
25–30では、29 բարձրացելոցն「高く立ち上がった」が、長い関係節を挟んで8 ալեացն「波々の」に戻って係る。
ալեացն ... բարձրացելոցն 「……高く立ち上がった波々の」
26–28 յափնածիր յաւազադիր սահմանս は「岸辺の砂地の境へ」。30 ընդդէմ は「向かって/ぶつかるように」という方向感を添える。波は高くせり上がりながら、岸へ向かって押し寄せる。
そして文末で、視点は急に航海者へ戻る。
հասեալ ի ցամաքակէտն 「岸に達して」 ծիծաղեսցին 「彼らは笑う」
この笑いは、荒海の恐怖を軽んじる笑いというより、これほどの危険を目にし、くぐり抜けた者が陸へ到達したときの安堵と歓喜と読むのが自然である。
ここで第一文との呼応が見えてくる。第一文は「港への到達」を խնդութիւն「喜び」と呼び、խաղաղութեամբ「平安のうちに」と結びつけた。第二文から第七文まで、作者はその「喜び」の裏にある嵐・波・恐怖・自己危険化を長く描く。そして第七文の末尾で、岸へ着いた者たちは実際に「笑う」。
第一文
港への到達 = 喜び・平安
↓
第二文–第三文
嵐・波・戦い・荒海
↓
第四文
波濤から逃れる
↓
第五文–第六文
利益のため自分自身を担保・代価にする
↓
第七文
危険を目にしながら進む
↓
岸へ到達して「笑う」
第七文は、第一文で抽象的に置かれた「到達の喜び」を、航海者の具体的な身体反応によって回収している。
1–4 զի թէպէտ եւ տեսանիցեն — 説明と譲歩
ABE1936 §230、JEN1959 §574は թէպէտ / թէ եւ 系を譲歩構文として扱う。
この文では、
զի թէպէտ եւ տեսանիցեն ... ... ծիծաղեսցին
「というのも、たとえ彼らが……を見ても、……彼らは笑う」
という外枠になる。
4 տեսանիցեն は形態上、接続法第一未来の3人称複数である。ただしここでは թէպէտ եւ「たとえ~ても」の中に置かれているため、単純な「彼らは見るだろう」という未来時制ではなく、譲歩節を構成する形として理解する。
9 տատանելոց — ալեացն「波々」と一致する後置分詞
տատանելոց は、表面形だけを見ると二つの形成が考えられる。
HMB2018 §135によれば、未来分詞は不定詞に -ոց を加えて作る。
տատանել + -ոց → տատանելոց
一方、過去分詞 տատանեալ も曲用し、複数斜格で同じ表面形 տատանելոց を生じうる。
この文では、直前の8 ալեացն が属格複数・定なので、9 տատանելոց をそれと格・数をそろえた後置分詞とみると、
ալեացն տատանելոց 波々の 揺れ動く 「揺れ動く波々の」
という自然な名詞句になる。
ヤコブ1:6にも近い結合がある。
հողմակոծեալ եւ տատանեալ ալեաց ծովու 「風に打たれ、揺れ動く海の波々」
この平行からも、本箇所の տատանելոց は未来分詞より、տատանեալ「揺れ動いた/揺れ動く」という過去分詞の斜格複数とみる方がよい。
これは第一文の նաւելոցն と同じく、未来分詞 -ոց と過去分詞の斜格形が表面上衝突する例である。
10 որ — 複数の「波々」を受ける関係詞
10 որ は8 ալեացն「波々」を受ける。որ 自体は単数形に見えるが、Grabarではこの形が複数の先行詞を受けることがあり、関係節内の動詞は先行詞に応じて複数となる。
ալեացն ... որ ... շրջշրջեն ... տողիցին 「波々……それらは……変え……列をなす」
11–12 յերփն երփն — 色とりどりに
երփն երփն は「色とりどりに、さまざまな色に」を表す反復表現である。
本文では最初の語に յ- が付き、յերփն երփն となる。յ- は前置詞 ի の異形で、HMB2018 §156が示す ի/յ + 対格の様態的な用法として、
յերփն երփն զերանգսն շրջշրջեն 「色合いをさまざまに変える」
と理解できる。
辞書が同じ箇所を引用する際に յ- を欠く形も見られるため、この前置詞の有無には本文伝承上の揺れがある。
15–17 ըստ սաստկութեան ծփանացն — うねりの激しさに応じて
15 ըստ は「~に従って、~に応じて」の意味で与格を支配する。16 սաստկութեան は属格・与格が同形だが、この構文では与格単数である。
17 ծփանացն「うねりの、波立ちの」が16を属格で限定する。
ըստ [սաստկութեան [ծփանացն]] 「うねりの激しさに応じて」
19 յեղեղուկ — յեղյեղուկ の異綴
辞書の標準的な見出しは յեղյեղուկ だが、辞書資料は յեղյեղուկս と յեղեղուկս を異形として併記しており、別の著者にも յեղեղուկ の実例がある。
したがって本文の յեղեղուկ は単純な誤植とみなす必要はない。意味は「しばしば変わる、移ろう、変転する」である。
18–24 — 様態描写、順序句、近義の分詞+定動詞
18–24は三つの層に分けると分かりやすい。
[18–20 様態] դիզադէզ յեղեղուկ փրփրացեալ 「幾重にも盛り上がり、移ろいながら泡立って」 [21+23 順序] զմիմեանց ... զկնի 「一つまた一つと/互いの後に」 [22+24 述語] կարգեալ ... տողիցին 「順序立って、列をなす」
21 զմիմեանց の基底形 միմեանց は表面上属格・与格が同形だが、本箇所では23 զկնի が属格を支配するため 属格複数 とする。HMB2018 §161 は զկնի を属格支配の前置詞・後置詞として分類し、CALFA / NBHL の զկնի միմեանց / զմիմեանց կնի が直接の平行例となる。辞書には、
զկնի միմեանց զմիմեանց կնի 「一つが他の後に/次々に」
という二つの語順が記録されており、第七文ではその二要素が22 կարգեալ を挟んで離れていると考えられる。
22 կարգեալ「順序立って」と24 տողիցին「列をなす」は意味の近い表現である。Grabarには、定動詞の前に同義・近義の過去分詞を置き、動作の様態や意味を強める表現がある。そのためここでは、二つの独立した出来事ではなく、
կարգեալ ... տողիցին 「順序立って、列をなす」
という意味の重なりとして読む。
24 տողիցին は接続法第一未来・受動形活用3人称複数である。ただし文脈では「列をなす」という中動的な意味になる。
辞書が同じ箇所を տողեսցին と引用する場合もある。この形も別の未来系列として形態的に説明できるため、単純な誤記ではなく異読として扱える。
29 բարձրացելոցն — 遠く離れた ալեացն「波々」と一致する
29 բարձրացելոցն は բարձրացեալ「高く立ち上がった」の属格複数・定である。すぐ近くに中心語はないが、長い関係節をさかのぼると8 ալեացն「波々の」属格複数・定がある。
հողմակոծեալ [ալեացն] տատանելոց, որ ..., եւ ... [բարձրացելոցն] ... 「風に打たれ、揺れ動き、 ……し、 さらに……高く立ち上がった波々の」
このように、29 բարձրացելոցն は遠く離れた8 ալեացն に格・数を一致させる後置分詞とみることができる。
辞書も同じ箇所を、
Ալեացն ... բարձրացելոցն 「……高く立ち上がった波々の」
というまとまりで引用しており、この読みを支える。
30 ընդդէմ — 副詞か、属格を支配する後置詞か
ここでは30 ընդդէմ を副詞的に取り、29 բարձրացելոցն「高く立ち上がった」に「向かって/ぶつかるように」という対向性を添えると読む。
յափնածիր յաւազադիր սահմանս բարձրացելոցն ընդդէմ 「岸辺の砂地の境へ、 向かって/ぶつかるように高く立ち上がった」
一方、ընդդէմ には属格を支配する前置詞・後置詞の用法もある。そのため、
[ալեացն ... բարձրացելոցն] ընդդէմ 「……高く立ち上がった波々に向かい合って」
のように読むことも形態上は可能である。
ただし直後の31–33 հասեալ ի ցամաքակէտն「岸に達して」に明瞭な到達句が続くこと、26–28が波の向かう方向として自然に読めることから、ここでは副詞的な理解を本文の流れに合うものとして採る。
31 հասեալ — 主節に先行する副詞的過去分詞
31 հասեալ「達して」は、後続の34 ծիծաղեսցին「彼らは笑う」と同じ航海者を主語にする。
[Ø հասեալ ի ցամաքակէտն] 「岸に達して」 [Ø ծիծաղեսցին] 「彼らは笑う」
第四文の ապրեալք「逃れおおせて」と同じく、過去分詞が主節に先行する出来事を副詞的に表している。
34 ծիծաղեսցին — 受動形活用だが意味は「笑う」
ծիծաղեսցին は ծիծաղիմ「笑う」の接続法第二未来・受動形活用3人称複数である。
HMB2018 §§126–128の系列では、たとえば、
խորհեսցի 3人称単数 խորհեսցին 3人称複数
のような形があり、ծիծաղեսցին も同型に理解できる。
ただし「受動形」は活用系列の形態的な名称であり、ծիծաղիմ 自体は「笑う」という自動詞である。したがって日本語を「笑われる」のような受動にする必要はなく、「彼らは笑う」と訳す。
թէպէտ եւ
譲歩を表す結合。「~とはいえ/たとえ~ても」。第七文全体の外枠を決める。
երփն երփն
「色とりどりに、さまざまな色に」。本文では զերանգսն շրջշրջեն「色合いを変える」と結び、波の色彩が動きに応じて変化する様子を描く。
զկնի միմեանց / զմիմեանց կնի
「一つが他の後に、次々に」。本文の զմիմեանց կարգեալ զկնի では二要素が離れているが、この定型的な順序表現を背景に読むことができる。
- Agathangelos, Պատմութիւն Հայոց, §1 第七文.
- ABE1936 — §230:թէպէտ / թէ եւ 系の譲歩構文。
- JEN1959 — Hans Jensen, Altarmenische Grammatik, 1959. とくに §574.
- HMB2018 — V. G. Hambardzumyan, Գրաբարի ձեռնարկ, 3rd edition, 2018. とくに §49、§§112–114、§§126–128、§135、§156、§159、§161.
- BAG1852 — Arsen Bagratuni, Հայերէն քերականութիւն, 1852. 分詞と定動詞の意味的重畳、前置詞反復等の記述。
- HAY2005 — 近義の過去分詞を定動詞に添える構文の記述。
- NBHL / CALFA — Բռնութիւն、Հողմակոծ、Շրջշրջեմ、Ծփանք、Դիզադէզ、Յեղյեղուկ、Տողեմ、Զկնի、Ափնածիր、Բարձրանամ、Ցամաքակէտ、Ծիծաղիմ 各項目。
- 古典アルメニア語聖書 — ヤコブ1:6.
