アガタンゲロス『アルメニア人の歴史』 §1 第二文
原文
1վասն 2զի 3ի 4մէջ 5ընդոստուցեալ 6ալեացն 7որ 8ընդդէմ 9դառնան, 10մրրկածին 11աւդովքն 12ի 13մարտ 14պատրաստին, 15ընչաքաղցիցն 16եւ 17աւգտածարաւեացն 18ժամ 19եդեալ 20բազմաց, 21միաբան 22սանձեալ 23թիակաւքն 24զերիվարս 25տախտակագործացն 26բեւեռակապ 27երկաթագործացն՝ 28զմիմեանս 29քաջալերելով, 30կասկած 31երկիւղի 32սրտիւք 33ի 34կապոյտ 35դաշտին 36ձիարձակ 37լինին, 38անքայլ 39գնացիւք 40անընթաց 41ոտիւք 42թռուցեալ 43ի 44վերայ 45ծովուն 46մկանանց 47ջուրցն 48ալեացն 49կուտակելոց։
番号は下の「逐語分析」「構造図」の番号と対応する。
試訳
「というのも、逆らって押し寄せる逆巻く波のただ中、嵐を生む風に煽られて、〔航海者たちは〕戦いに備える。財をむさぼり利益に渇く者たちは、多くの者に時を定め、心を一つにして、板造りで、釘で留められ鉄具を施された『駿馬』――すなわち船――を櫂で御し、互いに励まし合い、恐れに胸を騒がせながら、青い野――海――を馬を駆るように疾走する。船は、歩みなき歩み、走らぬ足で、海の水と盛り上がった波々の『背』――うねる波面――の上を飛ぶように進むのである。」
Vasn zi i mēǰ əndostucʿyeal aleacʿn or ənddēm daṙnan, mrrkacin awdovkʿn i mart patrastin, ənčʿakʿałcʿicʿn ew awgtacaraweacʿn žam edyeal bazmacʿ, miaban sanjyeal tʿiakawkʿn zerivars taxtakagorcacʿn beweṙakap erkatʿagorcacʿn՝ zmimeans kʿaǰalerelov, kaskac erkiwłi srtiwkʿ i kapoyt daštin jiarjak linin, ankʿayl gnacʿiwkʿ anəntʿacʿ otiwkʿ tṙucʿyeal i veray covun mkanancʿ ǰurcʿn aleacʿn kutakelocʿ.
| No. | 語形 | Romanize | 品詞・形態 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | վասն | vasn | 2 զի と結び վասն զի を形成 | վասն զի で理由・根拠・背景説明を導く |
| 2 | զի | zi | 接続詞;1 վասն と結ぶ | 「というのも」 |
| 3 | ի | i | 4 մէջ と複合前置詞 ի մէջ を形成 | ~の中で、~のただ中で |
| 4 | մէջ | mēǰ | 名詞由来;3 とともに属格を支配 | 中、ただ中 |
| 5 | ընդոստուցեալ | əndostucʿyeal | ընդոստնում の過去分詞;6 に前置する形容詞的修飾 | 跳ね上がる、逆巻く |
| 6 | ալեացն | aleacʿn | ալիք「波」・属格複数・定;ի մէջ の補部 | 波々の |
| 7 | որ | or | 関係詞 | ~するところの、その波々は |
| 8 | ընդդէմ | ənddēm | 副詞・前置詞的用法 | 逆らって、対抗して |
| 9 | դառնան | daṙnan | դառնամ・直説法現在3人称複数 | 向きを変える、立ち向かう |
| 10 | մրրկածին | mrrkacin | 形容詞;11 աւդովքն を前置修飾 | 嵐を生む、暴風を起こす |
| 11 | աւդովքն | awdovkʿn | աւդ・具格複数・定;9を原因・作用力の面から修飾 | 嵐を生む風によって、風に煽られて |
| 12 | ի | i | 13 մարտ と結ぶ前置詞 | ~へ、~に |
| 13 | մարտ | mart | 名詞・対格単数;12 ի と結び目標を表す | 戦い、戦闘 |
| 14 | պատրաստին | patrastin | պատրաստիմ・直説法現在3人称複数;主語は文脈上の航海者たち | 〔航海者たちは〕備える、身構える |
| 15 | ընչաքաղցիցն | ənčʿakʿałcʿicʿn | 実体詞的形容詞・属格複数・定;17 と並列し後続の非定形連鎖の主語 | 財をむさぼる者たちが |
| 16 | եւ | ew | 接続詞 | そして |
| 17 | աւգտածարաւեացն | awgtacaraweacʿn | օգտածարաւ「利益に渇く」の属格複数・定;15 と並列 | 利益を渇望する者たちが |
| 18 | ժամ | žam | 名詞・対格単数;19 と ժամ դնել を形成 | 時、時機 |
| 19 | եդեալ | edyeal | դնեմ の過去分詞;副詞的分詞用法 | 時を定めて |
| 20 | բազմաց | bazmacʿ | բազում・与格複数;18–19 に係る | 多くの者に/多くの者のために |
| 21 | միաբան | miaban | 形容詞由来の副詞的用法 | 心を一つにして、一致して |
| 22 | սանձեալ | sanjyeal | սանձեմ の過去分詞;副詞的分詞用法 | 手綱を取り、御して |
| 23 | թիակաւքն | tʿiakawkʿn | թիակ・具格複数・定 | 櫂で |
| 24 | զերիվարս | zerivars | երիվար・զ を伴う対格複数 | 駿馬を;ここでは船の比喩 |
| 25 | տախտակագործացն | taxtakagorcacʿn | տախտակագործ「木・板で造られた」の名詞的用法・属格複数・定 | 板造りのものども〔=船々〕の |
| 26 | բեւեռակապ | beweṙakap | 形容詞;27 を前置修飾 | 釘で留められた |
| 27 | երկաթագործացն | erkatʿagorcacʿn | երկաթագործ「鉄で造られた/鉄を施された」の名詞的用法・属格複数・定 | 鉄を施されたものども〔=船々〕の |
| 28 | զմիմեանս | zmimeans | 相互代名詞・対格複数;29 の目的語 | 互いを、互いに |
| 29 | քաջալերելով | kʿaǰalerelov | քաջալերել・不定詞具格単数;副詞的随伴行為 | 互いに励まし合いながら |
| 30 | կասկած | kaskac | 形容詞;32 սրտիւք を前置修飾 | 不安な、疑念を抱いた |
| 31 | երկիւղի | erkiwłi | երկիւղ・属格単数;32 を限定 | 恐れの、恐怖の |
| 32 | սրտիւք | srtiwkʿ | սիրտ・具格複数 | 心で、胸中に |
| 33 | ի | i | 与格と結ぶ場所用法 | ~で、~の上で |
| 34 | կապոյտ | kapoyt | 形容詞;35 を前置修飾 | 青い、蒼い |
| 35 | դաշտին | daštin | դաշտ「野、平原」・与格単数・定;33 ի の支配項 | 野で、平原で;ここでは海の比喩 |
| 36 | ձիարձակ | jiarjak | ձիարձակ լինել の構成要素 | 馬を放って駆ける、疾駆する |
| 37 | լինին | linin | լինիմ・直説法現在3人称複数 | ~となる、~する;ここでは疾駆する |
| 38 | անքայլ | ankʿayl | 形容詞 | 歩みのない |
| 39 | գնացիւք | gnacʿiwkʿ | գնացք・具格複数 | 歩みで、進み方で |
| 40 | անընթաց | anəntʿacʿ | 形容詞 | 走らない、走行しない |
| 41 | ոտիւք | otiwkʿ | ոտն・具格複数 | 足で |
| 42 | թռուցեալ | tṙucʿyeal | 過去分詞;意味上の主体は省略された「船」と解する | 飛んで、飛ぶように進んで |
| 43 | ի | i | 44 վերայ と複合前置詞 ի վերայ | ~の上に、~の上を |
| 44 | վերայ | veray | 名詞由来の前置詞的要素 | ~の上に、~の上を |
| 45 | ծովուն | covun | ծով・属格単数・定;46を前置修飾 | 海の |
| 46 | մկանանց | mkanancʿ | մկանք/մկան・属格複数;43–49 の中心語 | 背、うねり、波面 |
| 47 | ջուրցն | ǰurcʿn | ջուր・属格複数・定;46を後置修飾 | 水の |
| 48 | ալեացն | aleacʿn | ալիք・属格複数・定 | 波々の |
| 49 | կուտակելոց | kutakelocʿ | կուտակեալ の過去分詞・属格複数;48に一致 | 積み重なった、盛り上がった |
[1–2] վասն զի
「というのも」
════════ A. 外的状況+最初の定動詞単位 ════════════
[3–6] ի մէջ [ընդոստուցեալ ալեացն]
「逆巻く波々のただ中で」
│
└─[7–11 関係節]
որ ընդդէմ դառնան
մրրկածին աւդովքն
「嵐を生む風に煽られて、
逆らうように押し寄せる」
付帯状況
↓
[12–14] ի մարտ պատրաստին
「〔航海者たちは〕戦いに備える」
主語 = Ø(文脈上の航海者たち)
════════ B. 航海者たちの再導入と非定形連鎖 ════════
[15–17] ընչաքաղցիցն եւ աւգտածարաւեացն
属格複数の主語
「財をむさぼり、利益に渇く者たちが」
│
↓
[18–20] ժամ եդեալ բազմաց
「多くの者に時を定めて」
│
↓
[21–27] միաբան սանձեալ թիակաւքն ...
「心を一つにして、船を櫂で御して」
│
↓
[28–29] զմիմեանս քաջալերելով
「互いに励まし合いながら」
│
↓
[30–32] կասկած երկիւղի սրտիւք
「恐れに胸を騒がせながら」
│
↓
[33–37] ի կապոյտ դաշտին ձիարձակ լինին
「青い野=海の上で疾駆する」
※ 14 պատրաստին の省略主語と 15–17 の属格主語は、
指示上は同じ航海者たちを表す。
════════ C. 船=馬:比喩の展開 ═════════════════════
[24] զերիվարս 「駿馬」 ≈ 船
│
├─[23] թիակաւքն 「櫂で」
└─[22] սանձեալ 「御する」
船 = 馬
│
▼
[33–35] ի կապոյտ դաշտին
「青い野」= 海
│
▼
[36–37] ձիարձակ լինին
「馬を放って疾駆する」
════════ D. 終盤:船そのものへ視点が移る ═══════════
[省略された主体:船]
│
└─[42] թռուցեալ
「飛ぶように進み」
│
├─[38–39] անքայլ գնացիւք
│ 「歩みなき歩みで」
├─[40–41] անընթաց ոտիւք
│ 「走らぬ足で」
└─[43–49] ի վերայ ծովուն ...
「海の水と盛り上がった波々の
背=うねる波面の上を」
第一文は、「航海者たちの意志を港へ到達させること」を喜びと呼んだ。この第二文は、なぜ入港がそれほどの喜びなのかを、航海の危険を一気に描写することで説明する。
文頭の 3–6 ի մէջ ընդոստուցեալ ալեացն「逆巻く波々のただ中で」では、航海者の前に立ちはだかる海が描かれる。その波は、10–11 մրրկածին աւդովքն「嵐を生む風によって/風に煽られて」、こちらへ逆らうように押し寄せる。そのただ中で、12–14 ի մարտ պատրաստին「〔航海者たちは〕戦いに備える」。波と風は単なる自然条件ではなく、船乗りが対峙する敵として描かれ、海はまず戦場として視覚化される。
続いて 15–17 ընչաքաղցիցն եւ աւգտածարաւեացն「財をむさぼり、利益に渇く者たち」と、同じ航海者たちがあらためて言い直される。後段には「時を定める」「心を一つにして船を御する」「互いに励まし合う」「恐れに胸を騒がせる」「それでも疾駆する」という行為と心理の連鎖が続く。作者はここで、彼らを単なる勇敢な冒険者ではなく、利益への渇望に駆動され、恐れながらも危険へ進む者たちとして描いている。
21–27 では比喩が変わり、船が「駿馬」となる。23 թիակաւքն「櫂で」が 22 սանձեալ「御して」に結びつくことで、櫂は馬を操る手綱に見立てられる。25 տախտակագործացն「板造りのもの」、26–27 բեւեռակապ երկաթագործացն「釘で留められ、鉄を施されたもの」は、その「駿馬」が実際には船であることを、船体の物質的な姿によって描き出す。
この騎馬比喩は 33–37 でさらに明瞭になる。ի կապոյտ դաշտին は「青い野で/青い野の上で」。կապոյտ դաշտ「青い平原」は語彙的に「海」を指しうるが、ここでは դաշտ「野・平原」という原義そのものが重要である。直前の船=երիվար「駿馬」、直後の ձիարձակ լինին「馬を放って疾駆する」と呼応するからである。
船 = 駿馬 櫂 = 手綱 海 = 青い野 航行 = 騎行・疾駆
したがって կապոյտ դաշտ「青い野」は、単なる「海」の言い換えではなく、船=馬という比喩体系を成立させる中心的な表現になっている。
終盤の 38–42 はこの像を逆説的に言い換える。船には歩く足がない。それにもかかわらず、「歩みなき歩み」「走らぬ足」で海上を「飛ぶ」。辞書がこの箇所を引用するときに省略主語として (Նաւն)「船」を補っていること、անքայլ գնացիւք「歩みなき歩みで」・անընթաց ոտիւք「走らぬ足で」が足を持たない船によく合うことから、42 թռուցեալ「飛んで」では視点が航海者たちから船そのものへ移ると考えられる。
43–49 ի վերայ ծովուն մկանանց ջուրցն ալեացն կուտակելոց では、մկանանց が本来の「背、腰、脇」から、水や波の「背・うねり・波面」へ比喩的に広がる。船は、海の水と盛り上がる波々の「背」――うねる波面――の上を越えてゆく。
この長い第二文は、第一文の「入港=喜び」を裏側から説明している。
利益への強い欲求
↓
危険な航海へ出る
↓
海 = 戦場
船 = 駿馬
海 = 青い野
波 = 水の背
↓
その危険を越えて港へ到達する
ここからは本文の直接的な意味ではなく、後続する航海比喩と初期キリスト教の象徴伝統を踏まえた補足的な読みである。
24–27では、船が「駿馬」として描かれる一方、その実体は「木・板で造られ」「釘で留められ」「鉄を施された」ものとして具体的に示される。この描写は、文字どおりの造船描写として十分に理解できる。
しかし本作品では後続箇所で、歴史を書く者自身、さらに信仰者・殉教者が、嵐と波を越えて港へ向かう航海者として描かれ、「信仰の船」という像へ展開してゆく。したがって §1 冒頭の航海描写を、後の霊的航海比喩の準備として読む余地がある。
さらに初期キリスト教には、船を教会や信仰者の共同体に譬える伝統がある。アウグスティヌスは船を教会の像として語り、海を渡る者を支える「木」を主の十字架に結びつける。またユスティノスも、海を渡る船の帆や構造に十字架形の象徴を見る。
この伝統を背景にすると、第二文の「木・板」と「釘」が十字架上のキリストの受難を連想させる可能性もある。ただし、この箇所の տախտակագործ・բեւեռակապ が意図的に十字架の木と釘を指すと断定できる直接証拠はない。
作品内で明瞭な層: 航海・嵐・港の比喩が、 後に歴史家・信仰者・殉教者へ展開する 外部の象徴伝統と響き合う層: 船 = 教会・信仰共同体 船を支える木 = 十字架 可能性として留める層: 第二文 の「木・釘」が 十字架上の受難を意図的に暗示する
この第三の読みは、本文の直接的な意味とは区別しておく必要がある。
3–6 ի մէջ ընդոստուցեալ ալեացն — 複合前置詞と前置分詞
ի մէջ は「~の中で、~のただ中で」を表し、属格を支配する(HMB2018 §161)。6 ալեացն「波々の」はその補部である。
5 ընդոստուցեալ は ընդոստնում「跳ね上がる、逆巻く」の過去分詞で、ここでは ալեացն「波々」を前から修飾する。前置された多音節の形容詞的修飾語は、Grabar では中心語と格・数を表面上そろえないことが珍しくない。
ի մէջ [ընդոստուցեալ ալեացն]
逆巻く 波々(属格複数・定)
「逆巻く波々のただ中で」
10–11 մրրկածին աւդովքն — 波を駆動する風の具格
10 մրրկածին「嵐を生む」は11 աւդովքն「風によって」を前置修飾する。աւդովքն は具格複数・定で、関係節 որ ընդդէմ դառնան「それらが逆らって押し寄せる」を原因・作用力の面から修飾する。
որ ընդդէմ դառնան մրրկածին աւդովքն 「嵐を生む風に煽られて、逆らうように押し寄せる」
ここで具格は単なる随伴というより、波を動かす原因・作用力を表している。
12–37 — 省略主語の定動詞と属格主語の非定形連鎖
14 պատրաստին は պատրաստիմ「備える」の直説法現在3人称複数で、12–14 ի մարտ պատրաստին は「戦いに備える」というまとまりを作る。3–11は、その行為が置かれる外的状況を示す。
[逆巻く波々のただ中で……]
↓
ի մարտ պատրաստին
「〔航海者たちは〕戦いに備える」
14の主語は文脈から補われる航海者たちである。
15–17 ընչաքաղցիցն եւ աւգտածարաւեացն「財をむさぼり、利益に渇く者たち」は、そこから始まる非定形連鎖の属格複数主語とみる。Grabar では、-եալ 過去分詞の副詞的用法で属格の参与者が分詞の主語となり、その参与者が後続の定動詞にも継続する構文が見られる。
[15–17] 「財をむさぼり、利益に渇く者たちが」
↓
ժամ եդեալ բազմաց
「多くの者に時を定め」
↓
... սանձեալ ...
「……を御し」
↓
... քաջալերելով
「互いに励まし合いながら」
↓
... ձիարձակ լինին
「……疾駆する」
20 բազմաց は形の上では属格・与格・奪格が同形だが、ժամ դնել「時を定める」の受け手として与格複数とみるのが自然である。そのため15–17とは別の成分である。
14 պատրաստին の省略主語と15–17の属格主語は、統語上は別の位置にあるが、指示上は同じ航海者たちである。
18–20 ժամ եդեալ բազմաց — 「時を定める」
ժամ դնել は「時を定める、日時を決める」という定型的な結合である。GHAZ2012 は ԺԱՄ ԴՆԵԼ を独立項目として立て、使徒28:23の例を挙げる。
Ժամ եդեալ նմա օր մի 「彼のために一日を定めて」
このため、18 ժամ と19 եդեալ はまず「時を定めて」という一まとまりとして読む。
22 սանձեալ — 過去分詞の副詞的用法
22 սանձեալ「御して」は過去分詞の基本形で、複数の航海者たちの行為を副詞的に表している。形態としては過去分詞のままであり、文中で「~しながら/~して」と主たる出来事に付加されている。
23–27 — 櫂・馬・板造り・鉄装具
辞書は 24 զերիվարս「駿馬たち」を本箇所で引用し、「すなわち船々を」と説明する。そのため、ここでの「駿馬」は船の比喩とみてよい。
25 տախտակագործացն は「木・板で造られたものども」、27 երկաթագործացն は「鉄を施されたものども」と名詞的に用いられ、26 բեւեռակապ「釘で留められた」は後者を前から修飾すると考えられる。
զերիվարս ├─ տախտակագործացն │ 「板造りのものども」 └─ բեւեռակապ երկաթագործացն 「釘で留められ、鉄を施されたものども」 = 船々
NBHL系の辞書は երկաթագործ について、「鉄で造られた、または鉄を施した(船のようなもの)」という語義を示し、本箇所を引用している。したがって単純な「鉄製」よりも、「鉄具を施された/鉄で固められた」と理解する方が文脈によく合う。
28–29 զմիմեանս քաջալերելով — 「互いに励まし合いながら」
28 զմիմեանս は相互代名詞の対格複数で、29 քաջալերելով「励ます」の目的語である。քաջալերելով は不定詞の具格形で、ここでは副詞的に主たる出来事へ随伴する行為を表す。
類例として、辞書には、
Յառաջանայր հայրապետն քաջալերելով ... 「大司教は励ましながら進んでいた……」
のように、քաջալերելով が定動詞に随伴する例がある。また第一マカバイ2:37には、
զմիմեանս քաջալերէին 「彼らは互いに励まし合っていた」
と、զմիմեանս を目的語に取る平行例が見られる。
30–32 կասկած երկիւղի սրտիւք — 「恐れに胸を騒がせながら」
30 կասկած「不安な」と31 երկիւղի「恐れの」が、ともに32 սրտիւք「心で/胸中に」を限定するとみる。
կասկած ──────┐
↓
երկիւղի ───→ սրտիւք
「恐れの、不安な心で」
自然な日本語では「恐れに胸を騒がせながら」となる。
33–35 ի կապոյտ դաշտին — 「青い野」で
35 դաշտին は դաշտ「野、平原」の与格単数・定。ի + 与格の静的場所用法によって「青い野で/青い野の上で」となる。
կապոյտ դաշտ は辞書で「青い平原」と同時に「海」を表す結合として記録される。しかしここでは単に「海」と置き換えるだけでなく、「野」という原義を保つことが重要である。船を馬に見立てる比喩と結びつくからである。
36–37 ձիարձակ լինին — 「馬を放って疾駆する」
GHAZ2012 は ՁԻԱՐՁԱԿ ԼԻՆԵԼ を定型的な結合として掲げ、本箇所 ի կապոյտ դաշտին ձիարձակ լինին を用例に挙げる。全体で「青い野を馬を駆るように疾走する」と理解できる。
42 թռուցեալ — 「飛ぶ」のは誰か
42 թռուցեալ「飛んで」には本文上の明示的な主語がない。直前の航海者たちをそのまま主語とすることも表面上は可能だが、意味の上では船を補う方が自然である。
辞書はこの箇所を次のように引用し、省略主体として (Նաւն)「船」を補っている。
(Նաւն) անքայլ գնացիւքն թռուցեալ ի վերայ ծովուն 「〔船は〕歩みなき歩みで海の上を飛ぶように進み」 Անընթաց ոտիւքն թռուցեալ (նաւն) ի վերայ ծովուն 「走らぬ足で〔船は〕海の上を飛ぶように進み」
(Նաւն) は本文に実際に書かれた語ではなく、辞書編者が理解を示すために補ったものである。
43–49 ի վերայ ծովուն մկանանց ջուրցն ալեացն կուտակելոց — 「水と波の背」の上を
ի վերայ は属格を支配する。この句では46 մկանանց「背・うねり・波面」を中心語とみる。
ի վերայ
└─ մկանանց
├─ ծովուն
├─ ջուրցն
└─ ալեացն
└─ կուտակելոց
45 ծովուն「海の」は մկանանց を前から、47 ջուրցն「水の」と48–49 ալեացն կուտակելոց「盛り上がった波々の」は後ろから限定する。
辞書には逆の語順で、
ի վերայ մկանաց ծովուն 「海の背/うねりの上を」
という平行例があり、「海の背」という比喩的結合が確認できる。
49 կուտակելոց は、կուտակեալ「盛り上がった」という過去分詞の属格複数とみると、48 ալեացն「波々の」と格・数がそろう。
ալեացն կուտակելոց 波々の 盛り上がった 属格複数・定 過去分詞・属格複数
したがって43–49全体は、「海の水と盛り上がった波々の『背』――うねる波面――の上を」と理解できる。
վասն զի
理由・根拠・背景説明を導く接続表現。ここでは第一文「港への到達は喜びである」を受けて、「なぜそれほど喜ばしいのか」を説明する働きをするため、日本語では「というのも」とした。
ի մէջ ... ալեացն
ի մէջ + 属格で「~の中で、~のただ中で」。本文では ի մէջ ընդոստուցեալ ալեացն「逆巻く波々のただ中で」。
ի մարտ պատրաստին
ի + 対格の方向・目標表現と պատրաստիլ「備える」が結び、「戦いに備える」。辞書にも ի մարտ պատերազմի պատրաստիլ「戦いに備える」という結合が見られる。
ժամ դնել
「時を定める、日時を決める」。本文では ժամ եդեալ「時を定めて」。
զմիմեանս քաջալերելով
「互いに励まし合いながら」。相互代名詞 զմիմեանս を քաջալերել「励ます」の目的語とする。
կապոյտ դաշտ
「青い平原」であると同時に「海」を指すことのできる表現。本文では「海=青い野」という騎馬比喩の一部となる。
ձիարձակ լինել
「馬を放って疾駆する、馬を駆けさせる」。本文では船の航行を騎行として描く。
文法・語法・語彙資料
- BAG1852 — Arsen Bagratuni, Հայերէն քերականութիւն, 1852.
- ABR1976 — A. A. Abrahamyan, Գրաբարի ձեռնարկ, 4th edition, 1976.
- HMB2018 — V. G. Hambardzumyan, Գրաբարի ձեռնարկ, 3rd edition, 2018.
- JEN1959 — Hans Jensen, Altarmenische Grammatik, 1959.
- MEY2023 — Robin Meyer, Iranian Syntax in Classical Armenian: The Armenian Perfect and Other Cases of Pattern Replication, Oxford University Press, 2023.
- GHAZ2012 — Ruben Ghazaryan, Գրաբարի դարձուածաբանական բառարան, Yerevan State University Publishing, 2012.
- PHR2020 — A. Abajyan, N. Dilbaryan, A. Yuzbashyan, Q. Harutyunyan, Գրաբարի դարձվածաբանություն, Yerevan State University Publishing, 2020.
- NBHL / CALFA — Նոր բառգիրք Հայկազեան լեզուի および CALFA Enriched Dictionaries 所収語彙資料。
本文中で言及した一次文献
- 古典アルメニア語聖書 — 使徒28:23、第一マカバイ2:37ほか。
- Augustinus, Sermon 25 on the New Testament; cf. Sermon 13.
- Justin Martyr, First Apology 55.
本文
- Agathangelos, Պատմութիւն Հայոց, §1 第二文.
