アガタンゲロス『アルメニア人の歴史』 §8 第四文
原文
1Զթագաւորս 2շքեղացուցանէ 3ի 4նմանութիւն 5արտախոյրն 6պսակի 7ի 8վերջաւորն 9փողփողելոյ. 10նա 11եւ 12զաղքատս 13լցուցանէ, 14թաւթափէ 15բարձրացուցանէ 16յաղբեւաց 17եւ 18հաւասար 19իշխանաց 20կացուցանէ. 21նա 22եւ 23պսակումն 24աշխարհաց 25աւրհնութեամբ 26լցուցեալ, 27պսակ 28բոլորեալ 29տարւոյ 30քաղցրութեամբ։
試訳
「それは王たちを、冠の外縁の飾りがその端でひらめくさまになぞらえて輝かしくする。また貧しい者たちを満たし、振り起こし、塵芥の中から高く上げ、支配者たちと等しい者として立たせる。さらにそれは、祝福に満たされた諸世界の戴冠、甘美をもって一年をめぐる冠である。」
Ztʿagawors škełacʿucʿanē i nmanutʿiwn artaxoyrn psaki i verǰaworn pʿołpʿołeloy. Na ew załkʿats lcʿucʿanē, tʿawtʿapʿē barjrācʿucʿanē yałbewacʿ ew hawasar išxanacʿ kacʿucʿanē. Na ew psakumn ašxarhacʿ awrhnutʿeamb lcʿucʿeal, psak boloreal tarwoy kʿałcʿrutʿeamb.
| No. | 語形 | Romanize | 品詞・形態 | 意味・機能 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Զթագաւորս | Ztʿagawors | թագաւոր・対格複数 | 2の目的語。「王たちを」 |
| 2 | շքեղացուցանէ | škełacʿucʿanē | Շքեղացուցանեմ・直説法現在3単 | 「華やかにする、栄光あるものとする」 |
| 3 | ի | i | 前置詞 | 4と ի նմանութիւն を形成 |
| 4 | նմանութիւն | nmanutʿiwn | 名詞・対格単数を採用 | 3と「~になぞらえて、~のように」 |
| 5 | արտախոյրն | artaxoyrn | արտախոյր・対格単数を採用+定冠詞 | HMB2018の当該注では「冠の外側の結び/縁飾り」 |
| 6 | պսակի | psaki | պսակ・属格単数 | 5を限定。「冠の」 |
| 7 | ի | i | 前置詞 | 8–9の局所句を導く |
| 8 | վերջաւորն | verǰaworn | վերջաւոր・名詞的用法 | 「端、縁、縁取り」。定冠詞付き |
| 9 | փողփողելոյ | pʿołpʿołeloy | Փողփողիմ 系・屈折した不定詞形を採用 | 「きらめく/ひらめくこと」。8に関係する非定形形式 |
| 10 | նա | na | 11と接続的複合を形成 | 11と նա եւ「また、さらに」 |
| 11 | եւ | ew | 接続詞 | 10と添加 |
| 12 | զաղքատս | załkʿats | աղքատ・対格複数 | 13–15・20に共有される目的語。「貧しい者たちを」 |
| 13 | լցուցանէ | lcʿucʿanē | Լցուցանեմ・直説法現在3単 | 「満たす」 |
| 14 | թաւթափէ | tʿawtʿapʿē | Թօթափեմ に対応する版面形・現在3単 | 「振り払う、振り起こす、解き放つ」 |
| 15 | բարձրացուցանէ | barjrācʿucʿanē | Բարձրացուցանեմ・直説法現在3単 | 「高く上げる、引き上げる」 |
| 16 | յաղբեւաց | yałbewacʿ | ի + աղբեւք・奪格複数 | 15の起点。「塵芥・汚物の中から」 |
| 17 | եւ | ew | 接続詞 | 20を先行述語列へ加える |
| 18 | հաւասար | hawasar | 形容詞 | 「等しい」 |
| 19 | իշխանաց | išxanacʿ | իշխան・与格複数を採用 | 18の比較・同等対象。「支配者たちと」 |
| 20 | կացուցանէ | kacʿucʿanē | Կացուցանեմ・直説法現在3単 | 「~として立たせる、~の地位に置く」 |
| 21 | նա | na | 22と接続的複合を形成 | 22と նա եւ「さらに」 |
| 22 | եւ | ew | 接続詞 | 添加 |
| 23 | պսակումն | psakumn | 名詞・主格単数を採用 | 「戴冠、冠すること」。末尾の名詞的述語中心1 |
| 24 | աշխարհաց | ašxarhacʿ | աշխարհ・属格複数 | 23を限定。「諸世界の」 |
| 25 | աւրհնութեամբ | awrhnutʿeamb | օրհնութիւն に対応する版面形・具格単数 | 「祝福をもって/祝福に」 |
| 26 | լցուցեալ | lcʿucʿeal | Լցուցանեմ・過去分詞 | 23を修飾。「祝福に満たされた」 |
| 27 | պսակ | psak | 名詞・主格単数を採用 | 「冠」。末尾の名詞的述語中心2 |
| 28 | բոլորեալ | boloreal | Բոլորեմ・過去分詞 | 27を修飾。「円くめぐらされた、取り巻く」 |
| 29 | տարւոյ | tarwoy | տարի・属格単数 | 27を限定。「一年の」 |
| 30 | քաղցրութեամբ | kʿałcʿrutʿeamb | քաղցրութիւն・具格単数 | 28/27の状態・様態。「甘美をもって」 |
[SHARED 主語 from S003]
ճաճանչ լուսոյս
「その光の輝き」
│
├─ [1–9]
│ զթագաւորս շքեղացուցանէ
│ 「王たちを輝かしくする」
│ └─ ի նմանութիւն ...
│ 「冠の外縁飾りが端でひらめくように」
│
├─ նա եւ
│ [12] զաղքատս
│ ├─ [13] լցուցանէ
│ ├─ [14] թաւթափէ
│ ├─ [15–16] բարձրացուցանէ յաղբեւաց
│ │ 「塵芥から引き上げる」
│ └─ [17–20] եւ հաւասար իշխանաց կացուցանէ
│ 「支配者たちと等しく立たせる」
│
└─ նա եւ
NOMINAL CULMINATION / overt 定動詞 verb Ø
├─ [23–26]
│ պսակումն աշխարհաց
│ աւրհնութեամբ լցուցեալ
│ 「祝福に満たされた諸世界の戴冠」
│
└─ [27–30]
պսակ տարւոյ
բոլորեալ քաղցրութեամբ
「甘美をもって一年をめぐる冠」
自然な日本語訳
「その光は、冠の縁飾りがきらめくように王たちを輝かせる。また貧しい者たちを満たし、塵芥の中から引き上げ、支配者たちと肩を並べるところまで高める。そしてついには、世界を祝福で冠し、甘美をもって一年をめぐる冠そのものとして描かれる。」
末尾23–30には明示的な定動詞がない。日本語では「~である」を補ったが、原文では名詞句・過去分詞を重ねた名詞的な締めとして読む。
S003 は、霊的な光が「王の頭の飾り」にだけ局限されず、万人を飾り、照らし、満たし、慰め、癒すと述べた。S004 はその普遍性を三段階で具体化する。
第一段階はなお王冠の比喩を保つ。
Զթագաւորս շքեղացուցանէ ... 「王たちを輝かしくする」
HMB2018 §64 は5 արտախոյր に直接注を付け、ここでは 「冠の外側の結び/縁飾り」と説明する。CALFA/NBHL も本箇所を արտախոյր の用例として直接引用している。
したがって3–9は、霊的な光が「冠の縁飾りが端でひらめくように」王を飾る像と読む。ただし9 փողփողելոյ の局所的な係り方には小さな不確定性が残るため、細部を過剰に固定しない。
第二段階で、視線は王から貧しい者へ移る。
զաղքատս լցուցանէ թաւթափէ բարձրացուցանէ յաղբեւաց հաւասար իշխանաց կացուցանէ
ここには非常に強い聖書的反響がある。
サムエル記上 2:8:
յարուցանէ զաղքատն յաղբեւաց ... նստուցանել զնոսա ընդ զօրաւորս ժողովրդեան
詩篇 112:7–8:
Յարուցանէ զաղքատս յերկրէ, եւ բարձր առնէ զտառապեալս յաղբեւաց։ Նստուցանէ զնոսա իշխանս ընդ իշխանս ժողովրդեան իւրոյ։
S004 は語をそのまま複製してはいないが、
貧しい者 → աղբեւաց「塵芥・汚物」から引き上げる → իշխանաց「支配者たち」と同列に置く
という意味連鎖が一致する。
したがってここでの霊的な光は、単なる美的装飾ではない。社会的に低い者を高く上げ、王侯と同じ地平へ置く力として描かれる。
第三段階では、尺度がさらに拡大する。
պսակումն աշխարհաց աւրհնութեամբ լցուցեալ, պսակ բոլորեալ տարւոյ քաղցրութեամբ
ここでは明示的な定動詞が消え、名詞句が畳みかけられる。
23 պսակումն「戴冠」と27 պսակ「冠」を中心に、
諸世界 → 一年
という空間的・時間的な全体へ広がる。
この終結には 詩篇 64:12 の、
օրհնեսցի պսակ տարւոյ քաղցրութեան քո 「あなたの甘美の一年の冠が祝福されますように」
が明瞭に響く。
さらに S003 の
զամենեսեան լցուցանէ 「万人を満たす」
は、詩篇 144:16
լցուցանես զամենեսեան քաղցրութեամբ ... 「あなたはすべての者を甘美によって満たす」
とも語彙的に接する。
したがって §8 の末尾では、冒頭以来の「高価な宝石・市場・王冠」という交易的/宮廷的比喩が、聖書的な 祝福・高挙・充満の語彙へ吸収される。
段落全体の運動は、
王 ↓ 貧しい者 ↓ 諸世界 ↓ 一年という時間の全体
であり、霊的な光の作用域が一人の王の装飾から、社会全体・世界・時間そのものへ拡大して §8 を閉じる。
1. S004 の主節には5個の定動詞
2・13・14・15・20はいずれも3人称単数。
明示主語は S004 内に再掲されないが、S003 の主語3 ճաճանչ「輝き」が談話上継続する。
ճաճանչ ├─ շքեղացուցանէ ├─ լցուցանէ ├─ թաւթափէ ├─ բարձրացուցանէ └─ կացուցանէ
形態的一致もすべて単数で整う。
2. ''ի նմանութիւն'' — 比較・類似
CALFA は ի նմանութիւն を「~にならって、~のように」とする。
本箇所では、
ի նմանութիւն արտախոյրն պսակի ...
「冠の外縁の飾りになぞらえて」。
5 արտախոյրն は語義幅が広いが、HMB2018 §64 が本箇所に限って「冠の結び/縁飾り」と直接注記するため、この局所解釈を優先する。
3. ''փողփողելոյ'' — 非定形形式
辞書資源は Փողփողիմ に、
- 輝く
- きらめく
- 光を放つ
- 縁飾りをつける
等を与える。
9 փողփողելոյ は屈折した不定詞形と読むのが最も自然だが、
ի վերջաւորն փողփողելոյ
内部で8 վերջաւորն とどの程度密接に結ぶかは完全には一義化しない。
読解上は 「端・縁でひらめく」で十分に構造を保持できる。
4. ''նա եւ'' — 代名詞ではなく添加接続を採用
10–11と21–22の նա եւ は、表面的には նա「彼/それ」+եւ とも読める。
しかし HMB2018 §168 は նա を接続詞として挙げ、CALFA も նա եւ を 「また、さらに、そのうえ」の用法として記述する。
S004 では同一主語の作用を順次追加する位置にあるため、二箇所とも接続的複合と採る。
5. ''թաւթափէ'' — frozen surface と辞書形を分ける
一方 HMB2018 の同一引用は թօթափէ とし、CALFA には Թօթափեմ が立項される。
したがって解析では、
թաւթափէ = Թօթափեմ に対応する版面形
として扱う。
語義は「振り払う、除く、振り起こす、解き放つ」領域。本箇所では次の բարձրացուցանէ յաղբեւաց と連続し、低い状態から解放・高挙する動作を強める。
6. ''յաղբեւաց'' — 奪格複数
形態上は属格/与格/奪格複数が同形だが、前置詞 ի- と「どこから引き上げるか」という source relation により 奪格複数を採る。
聖書の同一表現でも、
յաղբեւաց 「塵芥/汚物の中から」
として「引き上げる」の起点を表す。
7. ''հաւասար իշխանաց'' — 与格複数
19 իշխանաց は属格/与格/奪格複数同形。
しかし18 հաւասար「等しい」が比較・同等の対象を要求し、
հաւասար իշխանաց 「支配者たちと等しい」
となるため、与格複数を採る。
20 կացուցանէ は12 զաղքատս を目的語として共有し、
「貧しい者たちを支配者たちと等しい者として立たせる」。
8. 末尾の ''լցուցեալ / բոլորեալ'' は完了主動詞ではない
S003 の իջուցեալ とは構造が異なる。
S003:
մեր 属格 + զոր 対格 + իջուցեալ → 完了節の 主節 verb
S004:
պսակումն ... աւրհնութեամբ լցուցեալ պսակ ... բոլորեալ ... քաղցրութեամբ → 名詞を修飾する過去分詞
26・28には独立した動作主や目的語を備えた完了節構造がなく、23 պսակումն、27 պսակ の性質を述べる。
したがって、形態は同じ過去分詞でも、ここでは 形容詞的な非定形用法とする。
9. ''աւրհնութեամբ'' — frozen spelling
HMB2018 の同一引用は օրհնութեամբ。語彙的には օրհնութիւն「祝福、豊かさ」に対応し、具格単数。
本文の綴りは変えず、解析時のみ lemma と機能を同定する。
10. ''պսակ տարւոյ ... քաղցրութեամբ'' と詩篇64:12
29 տարւոյ は属格単数で27を限定。
30 քաղցրութեամբ は具格単数。
պսակ տարւոյ 「一年の冠」 բոլորեալ քաղցրութեամբ 「甘美をもってめぐらされた」
詩篇64:12の պսակ տարւոյ քաղցրութեան քո と語彙骨格が近く、単なる偶然の「冠」語彙より強い聖書的反響と判断できる。
* ի նմանութիւն — 「~になぞらえて、~のように」。
նա եւ— 「また、さらに、そのうえ」。բարձրացուցանել … յաղբեւաց— 「塵芥の中から引き上げる」。聖書的高挙表現と強く呼応。հաւասար իշխանաց կացուցանել— 「支配者たちと同等の位置に置く」。պսակ տարւոյ … քաղցրութիւն— 詩篇64:12と明瞭に響き合う「一年の冠/甘美」の語彙群。
* Agathangelos, Պատմութիւն Հայոց, §8 S004
- HMB2018 §64 — Reading 34 として本箇所を収録。
արտախոյրに「ここでは冠の結び/縁飾り」と直接注記。同一引用ではթօթափէ,օրհնութեամբ。 - HMB2018 §168 —
նաの接続詞用法。 - CALFA / NBHL —
Արտախոյր,Շքեղացուցանեմ,Թօթափեմ,Բարձրացուցանեմ,Կացուցանեմ,Փողփողիմ,Պսակումն,Բոլորեմ,Օրհնութիւն等。 - Grammar KB v1.2 / Human Terminology v0.1.1 — 過去分詞の形容詞的用法と、非定形/定動詞相当機能の区別。
- サムエル記上 2:8 — 貧しい者を
յաղբեւացから引き上げ、高位者とともに座らせる平行。 - 詩篇 112:7–8 —
զաղքատս … յաղբեւացと支配者の列への高挙。 - 詩篇 64:12 —
պսակ տարւոյ քաղցրութեան քո。 - 詩篇 144:16 —
լցուցանես զամենեսեան քաղցրութեամբ。S003–S004 の「満たす/甘美」語彙との独立平行。
