アガタンゲロス『アルメニア人の歴史』 §5 第五文
原文
1զանձինս 2ի 3մէջ 4մահու 5եւ 6կենաց 7եդեալ՝ 8անձամբ 9զանձինս 10խորոցն 11մատնեն, 12կա՛մ 13մահու 14կամ 15կենաց, 16եւ 17մի 18յերկուց 19գտեալ՝ 20անձանց 21համարին։
試訳
「自分たちを死と生との間に置いて、自らその身をもって自分たちを深みへ委ねる、死へか、あるいは生へか。そして二つのうち一つを得て、それを自分たちに帰するのである。」
12–15 կա՛մ մահու կամ կենաց は、11 մատնեն の後に置かれた二つの到達結果を 第一分析 として読む。「深み」が「死/生」に属するという属格後置修飾分析も文法的には排除できず、explicit 残存する別解 として保持する。
zanjins i mēǰ mahu ew kenacʿ edeal՝ anjamb zanjins xorocʿn matnen, kam mahu kam kenacʿ, ew mi yerkucʿ gteal՝ anjancʿ hamarin.
| No. | 語形 | Romanize | 品詞・形態(採用分析) | 意味・機能 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | զանձինս | zanjins | անձն 対格複数 | 7 եդեալ の目的語。「自分たち自身を」 |
| 2 | ի | i | 前置詞 | 3 と複合関係語 ի մէջ を形成 |
| 3 | մէջ | mēǰ | 関係名詞/複合関係語要素 | 4・6 属格を支配。「~の間に」 |
| 4 | մահու | mahu | մահ 属格単数 第一分析 | 3 の第一補部。「死の」 |
| 5 | եւ | ew | 接続詞 | 4 と6を並列 |
| 6 | կենաց | kenacʿ | կեանք 属格複数(plurale tantum) | 3 の第二補部。「生の」 |
| 7 | եդեալ | edeal | Դնեմ 過去分詞 | 副詞的分詞。「自らを生死の間に置いて」 |
| 8 | անձամբ | anjamb | անձն 具格単数 | 強意・様態。「自ら、その身をもって」 |
| 9 | զանձինս | zanjins | անձն 対格複数 | 11 の直接目的語。「自分たち自身を」 |
| 10 | խորոցն | xorocʿn | խոր substantive・与格複数・定 第一分析 | 11 の到達先。「深みへ」 |
| 11 | մատնեն | matnen | Մատնեմ 直説法現在・3人称複数 | 「委ねる、引き渡す、危険へさらす」 |
| 12 | կա՛մ | kam | 選択接続詞 | 13 を第一選択肢として導く |
| 13 | մահու | mahu | մահ 与格単数 第一分析 | 11 の結果・到達先の第一項「死へ」 |
| 14 | կամ | kam | 選択接続詞 | 15 を第二選択肢として導く |
| 15 | կենաց | kenacʿ | կեանք 与格複数 第一分析 | 11 の結果・到達先の第二項「生へ」 |
| 16 | եւ | ew | 接続詞 | 最終叙述を追加 |
| 17 | մի | mi | 数詞 対格単数 第一分析 | 19 の対象。「一つを」 |
| 18 | յերկուց | yerkucʿ | ի/յ + երկու 奪格複数 第一分析 | partitive source。「二つのうちから」 |
| 19 | գտեալ | gteal | Գտանեմ 過去分詞 | 副詞的分詞。「一つを得て/見いだして」 |
| 20 | անձանց | anjancʿ | անձն 与格複数 第一分析 | 21 の利害・自己帰属参与者。「自分たちに/自分たちのものとして」 |
| 21 | համարին | hamarin | Համարիմ 直説法現在・3人称複数 第一分析 | 「数える、みなす、自己に帰する」 |
主要な形態裁定
- 4 մահու は 具格/属格/与格 同形候補を持つが、ի մէջ が属格を伴う複合関係語であるため 属格単数。
- 13 մահու は同じ surface だが、ここでは Մատնեմ の到達先と 15 との並列から 与格単数 第一分析。
- 6 / 15 կենաց も同形だが、6 は ի մէջ 支配で 属格複数、15 は結果・到達先で 与格複数 第一分析。
- 10 խորոցն は 属格複数/与格複数/奪格複数 が形態的に可能。Մատնեմ が直接目的語+無前置詞の受け手/到達先を許すため 与格複数・定 第一分析。
- 18 յերկուց は յ- を前置詞 ի の母音前形とし、奪格複数 を採用。「二つから/二つのうちから」。
- 20 անձանց は 属格複数/与格複数/奪格複数 同形だが、Համարիմ と自己利害の関係から 与格複数 第一分析。
AGATH.§5.S005 — ADOPTED WORKING STRUCTURE
省略主語(3人称複数) merchants
A. PARTICIPIAL DANGER FRAME
[7] եդեալ
├─ 目的語 [1] զանձինս
└─ LOCATION / STATE [2–6]
ի մէջ մահու եւ կենաց
「自らを生と死との間に置いて」
→ constructional reading:
「生死の危険に身を置いて」
↓ same 省略主語(3人称複数)
B. 定動詞による叙述 1
[11] մատնեն
├─ EMPH/様態 [8] անձամբ
├─ 目的語 [9] զանձինս
└─ GOAL [10] խորոցն 与格複数
「その身をもって自らを深みへ委ねる」
POSTPOSED DISJUNCTIVE GOAL / RESULT
├─ [12–13] կա՛մ մահու 与格単数
│ 「死へ」
└─ [14–15] կամ կենաց 与格複数
「あるいは生へ」
↓ two alternatives
C. PARTICIPIAL SELECTION FRAME
[19] գտեալ
└─ 目的語 [17–18]
մի յերկուց
[17] մի 対格単数
[18] յերկուց = ի + 奪格複数
「二つのうち一つを得て」
↓ same 省略主語(3人称複数)
D. 定動詞による叙述 2
[21] համարին
├─ 与格 [20] անձանց
│ 「自分たちに/自分たちのものとして」
└─ understood theme = [17] one obtained
「それを自分たちのものとみなす」
sentence head_status = DISTRIBUTED。定動詞中心は [11] մատնեն と [21] համարին。7 / 19 の過去分詞はそれぞれ後続定動詞へ前置された副詞的分詞枠として扱う。
自然な日本語訳
「自らを生と死との間――すなわち生死の危険――に置き、その身をもって自らを深みへ委ねる。行き着く先は死か、それとも生か。そしてその二つのうち一つを得れば、それを自分たちのものとして受け取るのである。」
上の「試訳」は原文の語順・構造との対応を優先した訳である。ここでは、一部の意訳や語順調整を許し、日本語としての流れと読みやすさを優先した自然化訳を示す。
S004 は、商人たちが利益を求めて海へ出る一方、航行は「自分たちの意志のまま」ではなく風と渦に支配される、と描いた。S005 はその制御不能性を極限まで押し進める。
冒頭の、
զանձինս ի մէջ մահու եւ կենաց եդեալ 「自らを生と死との間に置いて」
は、単なる空間比喩ではない。GHAZ2012 / PHR2020 は Agathangelos 本箇所を ԶԱՆՁՆ Ի ՄԷՋ ՄԱՀՈՒԱՆ ԵՒ ԿԵՆԱՑ ԴՆԵԼ という定型句として収録し、ԶԱՆՁՆ Ի ՄԱՀ ԴՆԵԼ「自分を死の危険にさらす」に関連づける。したがって本文では、「生死の危険へ自ら身を置く」という constructional meaning を採用する。
次の、
անձամբ զանձինս խորոցն մատնեն 「その身をもって自らを深みへ委ねる」
では անձն が二重に現れ、危険へ入る主体性が強く強調される。ABR1976 §120 と BAG1852 ¶1295 は անձն の斜格や անձամբ զանձն 型が人称・再帰・強意表現として用いられることを示す。
重要なのは、この「自ら」という強意と、S004 の ոչ ըստ անձանց կամաց「自分たちの意志どおりではなく」が矛盾しないことである。
自分で危険へ入る = agency
↓
しかし風・渦は制御できない = lack of control
↓
結果は
կա՛մ մահու կամ կենաց
「死か、それとも生か」
つまり、危険へ入る行為は自分たちのものだが、結果の選択は自分たちのものではない。
最後の、
մի յերկուց գտեալ՝ անձանց համարին 「二つのうち一つを得れば、それを自分たちのものとして受け取る」
は、この論理を締める。彼らは死と生のどちらを「選ぶ」のではなく、二つのうち実際に得た一方を自らに帰する。
この §5 終結は、§6 冒頭の Սոյն աւրինակ「同じように」によって、著者自身が「知恵の海」へ乗り出す比喩へ移される。商人の航海では、利益を求めて出航しても結果は生か死か分からない。同様に著者も、歴史叙述という困難な航海へ、命令・必要に押されて入ってゆく。
1. զանձինս ի մէջ մահու եւ կենաց եդեալ — 定型句+副詞的過去分詞
JEN1959 §§318–319 は ի մէջ のような ի+名詞 型の複合関係語が原則属格を伴うと記述する。したがって、
ի մէջ ├─ մահու 属格単数 └─ կենաց 属格複数
とする。
7 եդեալ は Դնեմ の過去分詞。HAY2005 NFIN.08 の production claim は、副詞的過去分詞が後続定動詞に前置される強い傾向を示す。本箇所では 1–7 全体が後続 11 の状況枠を形成する。
さらに PHR2020 は Agathangelos のこの表現を七要素の phraseological unit Զանձն ի մէջ մահուան եւ կենաց դնել として明示的に列挙する。したがって learner-facing には「生死の危険に身を置く」と説明する。
2. անձամբ զանձինս — 再帰・強意の重畳
8 անձամբ は անձն 具格単数、「自ら、自身で」。9 զանձինս は 対格複数、「自分たち自身を」。
ABR1976 §120 は、
Անձամբ զանձն դարձոյց ... Եկա՛յք զանձինս անձամբք մխիթարեսցուք ...
のように անձն を人称代名詞・再帰表現として用いる例を挙げる。BAG1852 ¶1295 も անձամբ զանձն 型を多数記載する。
本箇所の重畳は「その身をもって、自分たち自身を」と agency を強める。
3. զանձինս խորոցն մատնեն — Մատնեմ+直接目的語+与格到達先
CALFA/NBHL の Մատնեմ は「引き渡す、委ねる、危険にさらす」を表し、
մատնել զոք գազանաց 「人を野獣に引き渡す」 մատնել ի վտանգս 「危険にさらす」
などの結合を持つ。
したがって、
զանձինս 対格複数 = theme խորոցն 与格複数 = goal / recipient-like endpoint մատնեն 直説法現在・3人称複数
を採用し、「自らを深みへ委ねる」と読む。
10 խորոցն は խոր の名詞化/実体詞的用法「深み」とする。厳密な lexical category は minor 残存する別解。
4. կա՛մ մահու կամ կենաց — 選択構文と格
ABE1936 §229 は կամ … կամ を典型的な選択・交替の相関構文として記述する。
本箇所では、
կա՛մ մահու 与格単数 կամ կենաց 与格複数
を 11 մատնեն の postposed goal/result alternatives として採用する。
すなわち、
「深みへ自らを委ねる」
↓
到達するのは
死へ OR 生へ
という構造。
Alternative B: 13 / 15 を 属格 とし、10 խորոցն の後置属格修飾「死または生の深み」とする分析も形態的には可能。しかし定動詞 11 を跨いだ遠隔修飾を必要とし、Մատնեմ が無前置詞与格到達先を許すことから、A を 第一分析 とする。
5. մի յերկուց — 「二つのうち一つ」
17 մի は 19 գտեալ の目的語として 対格単数 第一分析。
18 յերկուց は յ- = ի + երկու の斜格複数。BAG1852 ¶706 は ի + 奪格 が「ある集合・全体からの一部」を取り出す partitive source を表しうることを例示する。
さらに BAG1852 ¶164 には、
զմի մի յերկուց առանձինն առեալ 「二つから一つずつを別々に取って」
というほぼ直接的な parallel がある。
したがって本箇所は 奪格複数:
մի յերկուց = one from the two = 「二つのうち一つ」
と確定する。
6. գտեալ ... համարին — 副詞的分詞+定動詞
19 գտեալ は Գտանեմ の過去分詞。「得て/見いだして」。省略主語(3人称複数) merchants が 21 համարին と主語を共有する副詞的分詞枠。
CALFA/NBHL の Գտանեմ は「find」のほか「gain, have」を含むので、ここでは「二つの結果の一方を得る」と読む。
7. անձանց համարին — 自己帰属の与格
20 անձանց は 与格複数 第一分析。
BAG1852 ¶1205 には、
... հանգիստ եւ մխիթարութիւն անձանց համարին ...
という անձանց + համարին の parallel があり、「自分たちにとって/自分たち自身に~とみなす」という自己利害・自己帰属の読みを支持する。
21 համարին は Համարիմ 直説法現在・3人称複数。CALFA/NBHL は「数える、評価する、~とみなす、~と思う」を挙げる。
本箇所では [17]「得た一つ」が意味上の theme で、
「それを自分たちのものとして数える/受け取る」
と読む。
Զանձն ի մէջ մահուան եւ կենաց դնել
PHR2020 / GHAZ2012 が Agathangelos 本箇所を明示的に収録する定型表現。
意味:「自分を生死の危険にさらす」。
資料側の citation は մահուան、frozen target は մահու。異読として保持し、本文は変更しない。
անձամբ զանձինս
固定した一個の idiom とまではしないが、անձն を instrumental+accusative で重ねる再帰・強意のよく認められる型。
մի յերկուց
自由な数詞+部分選択構文。「二つのうち一つ」。
* PHR2020, p.96 相当 — Զանձն ի մէջ մահուան եւ կենաց դնել を Agathangelos の七要素成句として列挙。
- GHAZ2012 — 同定型句を ԶԱՆՁՆ Ի ՄԷՋ ՄԱՀՈՒԱՆ ԵՒ ԿԵՆԱՑ ԴՆԵԼ として収録。
- JEN1959 §§318–319 — ի մէջ 等の複合関係語と属格支配。
- HAY2005, Ch.3 p.148 — 副詞的過去分詞の前置傾向。
- ABR1976 §120 — անձն の人称・再帰的用法。
- BAG1852 ¶1295 — անձամբ զանձն 等の強意・再帰用法。
- ABE1936 §229 — կամ … կամ の選択構文。
- BAG1852 ¶706, ¶164 — ի + 奪格 の部分選択と զմի մի յերկուց parallel。
- BAG1852 ¶1205 — անձանց համարին 型の parallel。
- NBHL / CALFA — Մատնեմ, Համարիմ, Գտանեմ, Դնեմ, Անձն, Խոր。
