アガタンゲロス『アルメニア人の歴史』— 公開ページ試作(§1 S005)
原文
1զայս 2վէպ 3պատմեն 4մերձաւոր 5սիրելեաց - 6զանցս 7եղելոյ 8աշխատութեան 9ուղւոյն 10ճանապարհաց, 11զելեւէջս 12տարաբեր 13անդադարն 14սահանաց, 15գրաւական 16եդեալ 17զանձինս 18շահաւորն 19աւգտութեան, 20եւ 21կէտ՝ 22զմահ 23մրցանաց 24յաղթութեան։
番号は下の「逐語分析」「構造図」の番号と対応する。
試訳
「彼らはこの物語を身近な親しい者たちに語る――旅路で味わった苦難の数々、絶えず変転する奔流の上り下りを。そして、利益ある利得の担保として自らを置き、勝利をめぐる競いの終点として死を〔置く〕、というのである。」
✓ S005 精読クローズ。 文の主要な形態・統語・語義・談話構造は確定した。1–5 は պատմեն を中心とする主節、5 սիրելեաց は受け手を示す DAT.PL。6–14 は先行する զայս վէպ「この物語」の具体的内容を後置的に敷衍する対格列である。7–10 は斜格過去分詞+状況的属格+同義名詞累積、11–14 は「絶えず変転する奔流の上下動」。15–24 は共有された եդեալ を中心とする二項の平行構造で、18–19 は 15 գրաւական を、23–24 は 21 կէտ を限定する。残る点は冠詞位置・属格意味ラベル等の細部注記のみで、逐語分析・構造図・本文読解・試訳を動かす substantive residual はない。
Zays vēp patmen merjawor sireleacʿ — zancʿs ełeloy ašxatutʿean ułwoyn čanaparhacʿ, zelewēǰs taraber andadarn sahanacʿ, grawakan edyeal zanjins šahaworn awgtutʿean, ew kēt՝ zmah mrcʿanacʿ yałtʿutʿean.
| No. | 語形 | Romanize | 品詞・形態(採用分析) | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | զայս | zays | ցուցական դերանուն այս;զ- を伴う ACC.SG を採用 | この |
| 2 | վէպ | vēp | 名詞・NOM/ACC.SG 同形;1 と一体の目的語なので ACC.SG を採用 | 物語、叙述、出来事の語り |
| 3 | պատմեն | patmen | պատմեմ・直説法現在3複 | 彼らは語る、物語る |
| 4 | մերձաւոր | merjawor | 形容詞/名詞候補;ここでは 5 の前置修飾語を preferred | 近しい、身近な |
| 5 | սիրելեաց | sireleacʿ | սիրելի の名詞的用法・DAT.PL。GEN/DAT/ABL.PL は形態上同形だが、պատմեմ の受け手として DAT.PL を採用 | 愛する者たちに、親しい者たちに |
| 6 | զանցս | zancʿs | անց・ACC.PL を採用 | 出来事、身に起きたこと、経験 |
| 7 | եղելոյ | ełeloy | լինել の過去分詞 եղեալ・GEN.SG。8 աշխատութեան と局所的に結ぶ斜格過去分詞;形容詞的修飾を基盤としつつ「労苦が生じた/経験された」という小述語的意味を保持 | 起こった、生じた、経験された |
| 8 | աշխատութեան | ašxatutʿean | աշխատութիւն・GEN.SG を採用;7 եղելոյ と局所的に結び、6 զանցս を「苦難の経験」と意味限定 | 苦労、労苦、困難 |
| 9 | ուղւոյն | ułwoyn | ուղի・GEN.SG.DEF を採用;10 ճանապարհաց と類義語累積を形成し、8 աշխատութեան を状況的に限定 | 道、旅路、旅程 |
| 10 | ճանապարհաց | čanaparhacʿ | ճանապարհ・GEN.PL を採用;9 ուղւոյն に対する同義名詞の属格付加(ABR1976型) | 道々、行路、道程 |
| 11 | զելեւէջս | zelewēǰs | ելեւէջ 系・զ- を伴う ACC.PL を採用 | 上り下り、起伏、上下運動 |
| 12 | տարաբեր | taraber | 形容詞;不変化的な前置修飾語として 14 սահանաց を修飾する分析を preferred | 揺れ動く、変転する |
| 13 | անդադարն | andadarn | անդադար;14 սահանաց を前置修飾する形容詞的用法を 採用。CALFA/NBHL 引用では անդադար սահանացն と冠詞位置が異なる | 絶え間ない、絶えず |
| 14 | սահանաց | sahanacʿ | սահանք・GEN.PL を採用;12–13 の前置修飾を受け、全体で 11 զելեւէջս を属格限定 | 奔流、水勢、波濤 |
| 15 | գրաւական | grawakan | 名詞・述語的第二対格を preferred;17 զանձինս に対し「担保として」。զ- を伴わない述語的対格として解釈可能 | 担保、保証、質 |
| 16 | եդեալ | edyeal | դնեմ「置く」の過去分詞。裸形でも暗黙の複数主語共有は可能;15–19 と 21–24 の平行構造を支える中心語 | 置いて、据えて、定めて |
| 17 | զանձինս | zanjins | անձն・ACC.PL を採用 | 自分たち自身を、その身を |
| 18 | շահաւորն | šahaworn | շահաւոր・形容詞。19 աւգտութեան を前置修飾する分析を preferred;-ն の厳密機能(定性標識/独立化等)は局所 residual | 利益になる、有利な、利益をもたらす |
| 19 | աւգտութեան | awgtutʿean | աւգտութիւն / օգտութիւն・GEN.SG を採用;18 と一まとまりを作り、15 գրաւական を「利益・利得の担保」と属格限定 | 利益、利得、有用性 |
| 20 | եւ | ew | 接続詞 | そして |
| 21 | կէտ | kēt | 名詞・述語的第二対格を preferred;15 գրաւական と平行し、22 զմահ に対して「終点・限界として」。第二の եդեալ は省略共有を preferred | 点、終点、限界、目標 |
| 22 | զմահ | zmah | մահ・զ- を伴う ACC.SG を採用 | 死を |
| 23 | մրցանաց | mrcʿanacʿ | մրցանք・GEN.PL。24 յաղթութեան と「勝利を目指す競い」を作り、全体で 21 կէտ を限定 | 競い、争い、競争 |
| 24 | յաղթութեան | yałtʿutʿean | յաղթութիւն・GEN.SG。23 մրցանաց に対し目的・到達点を表す属格として「勝利を目指す競い」と解釈 | 勝利、勝利すること |
※ 2 վէպ は辞書で「物語・叙述・出来事の語り」を表し、1 զայս とともに 3 պատմեն の目的語とみるのが自然である。
※ 5 սիրելեաց は CALFA/NBHL の見出し Սիրելի, լւոյ, լեաց に直接対応する複数斜格形である。GEN/DAT/ABL.PL は形態上同形だが、պատմեմ に受け手を与格で置く用例(「…をヤコブに語る」「アブラハムに語られた」)があり、本句では DAT.PL と確定する。4 մերձաւոր は多音節前置形容詞として不変化でよい。
※ 6 անց は「通過」だけでなく「出来事・事件・身に起きたこと」を表しうる。NBHL には Պատմէին … զամենայն անցսն՝ որ անցին … のように「起こった出来事を語る」近似例があり、本句の պատմեն … զանցս でも「経験した出来事」を第一義とする。物理的な անցք + ճանապարհ「道の通過点」も実在するが、本句では談話枠と辞書並行例から採らない。
※ 7–10 は四段の属格連鎖とはみない。7 եղելոյ と 8 աշխատութեան を局所結合とし、9–10 ուղւոյն ճանապարհաց は「旅路・道程」という類義語累積として 8 を状況的に限定する。アガタンゲロス §8 の երկայնուղւոյ ճանապարհաց が作者内平行例となる。
※ 14 սահանք は複数中心の名詞で「滝・奔流・水勢」を表す。本句では海上文脈と CALFA/NBHL の注解から、静的な「滝」より「奔流・水勢・波濤」と読む。12–14 տարաբեր անդադարն սահանաց は「揺れ動く、絶え間ない奔流の」という一まとまりの GEN.PL 名詞句を 採用する。なお CALFA/NBHL の当該引用では տարաբեր անդադար սահանացն とされ、定冠詞 -ն の位置だけが現行本文と異なる。この差は本文伝承上の注記に留め、構文判断には影響させない。
※ 15 գրաւական「担保」と 21 կէտ「終点・限界」は、17 զանձինս「自分たち自身」と 22 զմահ「死」に対する述語的第二対格として平行する分析を 採用する。դնել が目的語+述語的対格を取る構文は文法資料に支持され、GHAZ2012 の ԿԷՏ ԴՆԵԼ には Կէտ եդեալ զժամանակն … という近い語順の例もある。
AGATH.§1.S05
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════════ A. 主節 ═══════════════════════════════════
[1–2] զայս վէպ
「この物語を」 ACC.SG
│
└─ direct object
↓
[3] պատմեն
「彼らは語る」 FIN.PRES.3PL
│
└─ recipient
↓
[4–5] մերձաւոր սիրելեաց
「身近な親しい者たちに」
DAT.PL
════════ B. ダッシュ以後 — 「物語」の説明的敷衍 ═══════
[1–2] զայս վէպ
「この物語」 ACC.SG / direct object of պատմեն
│
└─ explanatory content elaboration
↓
[6–10] զանցս եղելոյ աշխատութեան ուղւոյն ճանապարհաց
「旅路で生じた労苦の諸経験を」
HEAD [6] զանցս ACC.PL
│
└─ GEN specification
[8] աշխատութեան
「労苦・困難」
├─ [7] եղելոյ
│ PTCP.GEN.SG
│ 「生じた/経験された」
│
└─ circumstantial domain
[9–10] ուղւոյն ճանապարհաց
「旅路・道程における」
= synonymous genitival addition
(ուղի + ճանապարհ)
※ 単純な四段属格鎖ではない。
9–10 は ABR1976 型の同義名詞累積を 採用。
+
[11–14] զելեւէջս տարաբեր անդադարն սահանաց
「絶えず変転する奔流の上下動を」
HEAD [11] զելեւէջս ACC.PL
│
└─ GEN modifier
[12–14] տարաբեր անդադարն սահանաց
「揺れ動く、絶え間ない奔流の」
[12] տարաբեր ADJ
[13] անդադար(ն) ADJ
[14] սահանաց GEN.PL
※ 12–13 は 14 の前置修飾を 採用。
CALFA/NBHL 引用では ''անդադար սահանացն'' と
冠詞位置が異なるが、本文伝承上の注記に留める。
════════ C. 後半の対照的な並列 — preferred ═════════
[16] եդեալ
「置いて/定めて」
shared predicate
/ \
/ \
[15] գրաւական [21] կէտ
「担保として」 「終点・限界として」
predicative ACC predicative ACC
│ │
↓ ↓
[17] զանձինս [22] զմահ
「自分たち自身を」 「死を」
direct object direct object
[18–19] շահաւորն աւգտութեան [23–24] մրցանաց յաղթութեան
「利益ある利得の」 「勝利を目指す競いの」
│ │
└── modifies [15] գրաւական └── modifies [21] կէտ
「利益ある利得の担保」 「勝利を目指す競いの終点」
採用構造:
[գրաւական եդեալ զանձինս ...]
եւ
[կէտ (եդեալ) զմահ ...]
「自らを担保として置き、
死を終点として〔置き〕」
※ ''դնել'' は目的語+述語的第二対格を取りうる。
述語的対格では ''զ-'' を伴わないことがあり、
''գրաւական / կէտ'' と ''զանձինս / զմահ'' の非対称な
''զ-'' 表示はこの分析と整合する。
※ 16 ''եդեալ'' の裸形は、暗黙の複数主語との共有を妨げない。
第二項では同じ ''եդեալ'' を表面上繰り返さず共有したとみる。
※ 18–19 と 23–24 はともに採用分析として確定。18 ''շահաւորն'' の ''-ն'' の厳密機能、および 24 ''յաղթութեան'' の属格意味ラベルの細分類だけを注記として残す。
S004 では、航海者たちはようやく波濤から逃れ、各地方へ赴いた。S005 はそこで視点を海上そのものから、生還後に経験を語る航海者たちへ移す。
冒頭の 1–5 զայս վէպ պատմեն մերձաւոր սիրելեաց は、「彼らはこの物語を身近な親しい者たちに語る」。5 սիրելեաց は սիրելի の名詞的用法 DAT.PL で、պատմեմ の受け手を表す。
ダッシュ以後の 6 զանցս「出来事・経験」と 11 զելեւէջս「上下動」は、ともに զ- を伴う対格である。文法資料には、先行する総括的な対格成分を、後続の対格句・列挙で説明・具体化する բացահայտիչ の拡張用法がある。アガタンゲロス自身にも §490 զերկնաւորսն՝ զհրեշտակս, զզաւրսն հոգեղէնս のような「総括的対格 → 具体的対格列挙」が確認できる。
したがって本句では、
զայս վէպ
「この物語を」
│
└─ 説明的敷衍/内容具体化
├─ զանցս ...
│ 「旅路で味わった苦難の数々」
└─ զելեւէջս ...
「絶えず変転する奔流の上下動」
と読む。6・11 は意味上 պատմեն の object domain に属するが、別々の新規目的語を追加するというより、すでに提示された զայս վէպ の内容を後置的に展開している。現行本文のダッシュはこの読みと整合するが、分析の根拠自体は文法記述と作者内平行例に置く。
後半 15–24 は、航海の危険を経済と競争の語彙で言い換える。
[գրաւական [շահաւորն աւգտութեան]]
եդեալ
[զանձինս]
「利益ある利得の担保として自らを置き」
եւ
[կէտ [մրցանաց յաղթութեան]]
(եդեալ)
[զմահ]
「勝利を目指す競いの終点として死を〔置き〕」
15 գրաւական「担保」と 21 կէտ「終点」はともに述語的第二対格、17 զանձինս と 22 զմահ がそれぞれ直接目的語である。16 եդեալ は第二項にも共有される。
18–19 は շահաւոր(ն) + աւգտութիւն の独立用例と գրաւական + GEN の語法により「利益ある利得の担保」と読む。23–24 は մրցանք「競い」+ յաղթութիւն「勝利」で、「勝利を目指す競い」を形成し、その属格句全体が 21 կէտ を限定する。したがって航海者・商人は、利益を求めて自分の身そのものを担保に差し出し、その競いの終点には死を置く者として描かれる。
以上により、S005 の本文読解を動かす substantive residual は解消した。
1–5 զայս վէպ պատմեն մերձաւոր սիրելեաց — 目的語と受け手
1 զայս は զ- を伴い、2 վէպ とともに 3 պատմեն の対格目的語を形成する。
զայս վէպ → պատմեն この物語を 語る
3 պատմեն は現在3複で、主語は S004 から続く航海者・商人たちとみる。
4–5 մերձաւոր սիրելեաց は「身近な親しい者たちに」。CALFA/NBHL は Սիրելի, լւոյ, լեաց として սիրելեաց に対応する複数斜格形を直接掲げる。GEN/DAT/ABL.PL は形態上同形だが、պատմեմ は内容を対格、受け手を与格で置く用例を持つため、本句では DAT.PL と確定する。4 մերձաւոր は多音節の前置形容詞であり、HMB2018 §178 の規則により不変化でよい。
6 と 11 — ''զայս վէպ'' の内容を後置的に具体化する
6 զանցս と 11 զելեւէջս は、ともに明示的な զ- を伴う ACC.PL である。
初期には、
A. պատմեն の追加的な直接目的語 B. զայս վէպ の内容敷衍
を競合案として置いたが、この二者択一は撤回する。形態統語上、6・11 は「語る内容」として պատմեն の object domain に属する。同時に談話・説明構造上は、先行する総括的目的語 զայս վէպ「この物語」を後置的に具体化する。
BAG1852 §§714–718 は、先行成分を後続の語句で説明する բացահայտիչ を広く扱い、総括的な対格を後続の対格列で具体化する例を示す。HMB2018 §178© も説明語が先行語の内容を明らかにし、通常後置されることを記述する。
アガタンゲロス自身にも §490、
զերկնաւորսն՝ զհրեշտակս, զզաւրսն հոգեղէնս 「天上の者たちを――天使たち、霊的な軍勢を」
というほぼ同型の「総括的対格 → 具体的対格列挙」がある。§862 にも後置説明対格が確認できる。
したがって S005 は、
պատմեն
└─ OBJ → զայս վէպ
│
└─ explanatory content elaboration
├─ զանցս ...
└─ զելեւէջս ...
と分析する。「狭義の名詞同格」と言い切るより、説明的敷衍(内容具体化)とするのが適切である。
7–10 — 斜格過去分詞+状況的属格+同義語累積
この四語は、単純な一方向の属格連鎖として読む必要がないことが文法・辞書・作品内平行例の照合から明らかになった。
まず 7 եղելոյ は եղեալ の GEN.SG で、8 աշխատութեան GEN.SG と局所的に結ぶ。Bagratuni の過去分詞斜格用法には、分詞が名詞と同じ斜格を取りながら、単なる属性ではなく非定形述語に近い意味を保つ例がある。したがって、
[եղելոյ աշխատութեան] PTCP.GEN.SG + N.GEN.SG 「生じた/経験された労苦の」
と捉える。
ここで初期に検討した通常の「属格主語+過去分詞述語」は、そのままでは当てはめない。HMB2018/HAY2005 の通常型では、主語が属格でも過去分詞は裸形 -եալ であることが多い。主語と分詞の双方が属格になる absolute 型も Jensen に確認できるが、有標で稀な型である。S005 では、より直接的な NFIN.07 の斜格過去分詞用法で十分説明できる。
次に 9–10 ուղւոյն ճանապարհաց は、通常の所有的「旅路の諸道」とは読まない。ABR1976 は Grabar の文体構文として、同義・類義名詞を重ねる際に第二名詞を属格に置き、全体を一つの統語成分として用いることを明示する。アガタンゲロス自身の例として մարտ պատերազմի、զկամս ցանկութեանն が挙げられる。
ուղւոյն ճանապարհաց GEN.SG GEN.PL 「旅路・道程」
はこの型によく合う。CALFA/NBHL でも ճանապարհ の synonym に Ուղի が明示される。また §8 に երկայնուղւոյ ճանապարհաց という同じ GEN.SG + GEN.PL の作者内平行例がある。
したがって現在の preferred は、
զանցս
└── աշխատութեան
├── եղելոյ
└── ուղւոյն ճանապարհաց
(= 「旅路・道程における」)
である。9–10 は 8 աշխատութեան を「旅路における労苦」と状況的に限定するとみる。KOS1980 が記述する場所・方向などの状況的属格とも整合する。
意味全体は、
զանցս եղելոյ աշխատութեան ուղւոյն ճանապարհաց 「旅路・道程において生じた労苦の諸経験」 → 「旅路で味わった苦難の数々」
と読む。
なお CALFA/NBHL の Ուղի 項には本句が զանցս աշխատութեան ուղոյն ճանապարհաց と եղելոյ を欠く形で引用される。ただし Phase 2 frozen target では եղելոյ を含む本文が保持されており、§1 にこの箇所の substantive correction はない。したがって辞書引用の省略・別伝承として記録するに留め、本文は変更しない。
11–14 — ''տարաբեր անդադար(ն) սահանաց'' を一まとまりの属格句として読む
11 զելեւէջս は զ- を伴う ACC.PL で、「上り下り・上下動・うねり」を表す中心語とみる。GHAZ2012 の ԵԼԵՒԷՋՍ ԱՌՆԵԼ も、この語が上下運動・波状運動を表すことを支持する。
14 սահանք は「滝・奔流・水勢」を表す複数中心の名詞で、本句では海上文脈から「奔流・水勢・波濤」と読む。したがって、
զելեւէջս
└── սահանաց
「奔流・水勢の上下動」
が基礎構造となる。
12 տարաբեր は辞書上 adjective「揺れ動く、動揺した、異なる」。複合形容詞には不変化的に用いられるものがあり、類義語 տարուբեր にも複数斜格名詞の前で無変化の用例がある。したがって、11 を後置不一致で修飾するとみるより、14 սահանաց の前置修飾語とする方が自然である。
13 անդադարն も、11 զելեւէջս を後置修飾するなら複数対格一致形が期待されるのに対し、独立用例では անդադար が属格複数名詞の前で無変化に置かれる。したがって 13 も 14 を前置修飾するとみる。
現在の preferred は、
[11] զելեւէջս
「上下動・うねりを」
│
└── [12–14] տարաբեր անդադար(ն) սահանաց
「揺れ動く、絶え間ない奔流の」
であり、全体を
「絶えず変転する奔流の上下動を」
と読む。
なお CALFA/NBHL の当該引用では Զելեւէջս տարաբեր անդադար սահանացն とされ、現行本文 տարաբեր անդադարն սահանաց とは定冠詞 -ն の位置が異なる。この差は軽い本文伝承上の注記としてのみ保持し、本文の採用形や上記の統語分析を変更する根拠とはしない。
15–24 — ''գրաւական / կէտ'' と ''եդեալ'' の共有:preferred
この箇所は文法資料・句例資料の照合により確度が大きく上がった。
դնել は 対格目的語+述語的第二対格 を取りうる。したがって、
գրաւական եդեալ զանձինս 「自分たち自身を担保として置き」
では、17 զանձինս が直接目的語、15 գրաւական がそれに対する述語的第二対格とみられる。述語的対格が զ- を伴わないことは文法記述とも整合する。
第二項も同じ型で、
կէտ՝ (եդեալ) զմահ 「死を終点・限界として〔置き〕」
と分析するのが現在の 採用分析である。GHAZ2012 の ԿԷՏ ԴՆԵԼ には Կէտ եդեալ զժամանակն … という近い構造があり、կէտ を դնել の述語補語として取ることを直接補強する。
また GHAZ2012 には ԶԱՆՁՆ Ի ՄԱՀ ԴՆԵԼ、アガタンゲロス自身にも զանձն / զանձինս + դնել で身を危険にさらす表現が確認できる。したがって 15–24 の意味的な「身を賭ける」読みも作品語法とよく一致する。
さらに、16 եդեալ が裸形であることは、暗黙の複数主語を共有する分析への反証にはならない。過去分詞の裸形が複数の定動詞主語と共有される用例が文法資料側にあるため、初期ノートで立てた「数一致の疑義」は撤回する。
以上から、
[գրաւական [շահաւորն աւգտութեան]]
եդեալ
[զանձինս]
եւ
[կէտ [մրցանաց յաղթութեան]]
(եդեալ)
[զմահ]
という二項の平行構造を採用する。
18–19 — ''շահաւորն աւգտութեան'' は ''գրաւական'' 側に付く
18 շահաւորն を 17 զանձինս の後置一致形容詞とみる案は弱い。զանձինս は ACC.PL であるのに対し、շահաւորն は通常の屈折分析では単数形相当であり、後置形容詞に期待される格・数一致と合わない。
一方、CALFA/NBHL には
շահաւոր օգտութեանց շահաւոր օգտութեանցն
という独立用例があり、շահաւոր + օգտութիւն が実在する語彙結合であることが確認できる。HMB2018 §178 が記述するように、多音節の前置形容詞は無変化で用いられうるため、շահաւոր が後続する աւգտութեան GEN.SG を前置修飾することに形態上の支障はない。
さらに գրաւական は辞書用例で、
գրաւական խաղաղութեան գրաւական կենդանութեան գրաւական սիրոյ
のように GEN を伴って「~の担保・保証」を作る。したがって S005 では、
[15] գրաւական
└── [18–19] շահաւորն աւգտութեան
「利益ある利得の」
すなわち「利益ある利得の担保」とみるのが現在の 採用分析である。
アガタンゲロス自身にも շահս աւգտութեան վաճառացն、զդեղն աւգտութեան など、աւգտութիւն を他の名詞に属格限定として添える語法が確認でき、作者語法とも整合する。
なお 18 շահաւորն の -ն は、通常の単純な形容詞+名詞句なら名詞側に冠詞が付くという語順との関係がなお完全には一義化できない。形容詞への定性標識、独立化・名詞化に近い用法などが考えられるが、この局所的な問題は 18–19→15 という主要 attachment を揺らさない。
23–24 — ''մրցանաց յաղթութեան'' は「勝利を目指す競い」
23 մրցանաց は մրցանք「競い・競技・争い」の GEN.PL、24 յաղթութեան は յաղթութիւն「勝利」の GEN.SG である。
語彙的には、մրցանք が競争・競技という過程を、յաղթութիւն がその到達点・結果を表す。KOS1980 の目的属格の記述、および動作・抽象名詞に属格を添える一般構文に照らし、
մրցանաց յաղթութեան 「勝利を目指す競いの」
と解釈する。厳密な意味ラベルは「目的属格」を第一候補とするが、目的/結果・目的語的関係との境界は細部注記に留める。
この句全体は 21 կէտ を限定する。կէտ には կէտ նպատակի, կէտ վճարման など「~の終点・目標点」を作る GEN 結合があり、属格限定語と被限定名詞の間に別成分が入る非隣接配置も Grabar では許容される。
したがって、
[21] կէտ
└── [23] մրցանաց
└── [24] յաղթութեան
「勝利を目指す競いの終点」
とし、22 զմահ は共有された եդեալ の直接目的語として「死をその終点として置く」と読む。
ելեւէջս
GHAZ2012 の ԵԼԵՒԷՋՍ ԱՌՆԵԼ は「上る・下る」の意味を示す。本 S005 では առնել はなく、զելեւէջս 自体を名詞的に「上り下り/起伏」と読む。
գրաւական ... եդեալ / զանձն ... դնել
S005 の գրաւական եդեալ զանձինս そのものを独立した固定成句と断定はしないが、զանձն / զանձինս + դնել で「身を置く・身を危険にさらす」結合は句例資料とアガタンゲロス作品内に確認できる。したがって「自分自身を担保として置く」という語彙的結合には十分な支えがある。
ԿԷՏ ԴՆԵԼ
GHAZ2012 は ԿԷՏ ԴՆԵԼ を定型項目として立て、「限界・期限を定める」用法を挙げる。そこには Կէտ եդեալ զժամանակն … という、S005 の կէտ՝ զմահ と構造的に近い例がある。このため第二項を կէտ (եդեալ) զմահ として第一項に平行させる分析の確度は高い。
読解ノート — クローズ(2026-09-20)
現段階の骨格は次のように置く。
[Øᵢ զայս վէպ պատմեն մերձաւոր սիրելեաց]
「彼らᵢはこの物語を身近な親しい者たちに語る」
↓ 内容展開
[զանցս եղելոյ աշխատութեան ուղւոյն ճանապարհաց]ACC.PL
「旅路で味わった苦難の数々を」
[զելեւէջս տարաբեր անդադարն սահանաց]ACC.PL
「絶えず変転する奔流の上下動を」
[գրաւական եդեալ զանձինս շահաւորն աւգտութեան]
「利益ある利得の担保として自分たちを置き」
եւ
[կէտ (եդեալ) զմահ մրցանաց յաղթութեան]
「勝利を目指す競いの終点として死を〔置き〕」
主節 1–5、զայս վէպ を具体化する 6–14 の説明的敷衍、15–24 の եդեալ 共有を含む平行構造まで、主要分析はすべて確定した。7 եղելոյ は 8 աշխատութեան と GEN.SG で結ぶ斜格過去分詞、9–10 ուղւոյն ճանապարհաց は「旅路・道程」の同義名詞累積、11–14 は「絶えず変転する奔流の上下動」。18–19 は 15 գրաւական を「利益ある利得の担保」と限定し、23–24 は 21 կէտ を「勝利を目指す競いの終点」と限定する。5 սիրելեաց は DAT.PL と確定した。以下に残すのは採用分析を変更しない細部注記のみである。
S005 には、本文読解・逐語分析・構造図・試訳を変更し得る substantive residual は残っていない。以下は説明上の細分類または本文伝承上の注記である。
- 7
եղելոյ— 8աշխատութեանと結ぶ斜格過去分詞であることは確定。形容詞的修飾と非定形小述語性のどちらを前面に出すかは説明ラベル上の差に留まる。 - 9–10→8 —
ուղւոյն ճանապարհացがաշխատութեանを「旅路における労苦」と状況的に限定することは確定。「場所的」「状況的」の細分類のみ留保。 - 13
անդադարն— CALFA/NBHL の当該引用ではանդադար սահանացնと定冠詞-նの位置が異なる。本文伝承上の軽い注記に留め、採用本文・構造・訳は変更しない。 - 18
շահաւորնの-ն— 18–19→15 の attachment は確定。-նを句内定性標識、独立化・名詞化に近い用法等のどこまで厳密に分類するかのみ未固定。 - 24
յաղթութեան— 23մրցանացに対して「勝利を目指す」関係を作ることは確定。意味ラベルは目的属格を第一候補とするが、目的/結果・目的語的関係との境界は注記レベルに留める。
- 16
եդեալの裸形を理由に複数主語共有を疑う必要はないことを確認した。初期の数一致疑義は撤回。 դնելの目的語+述語的第二対格構文に基づき、15գրաւական/ 17զանձինս、21կէտ/ 22զմահの二組を平行構造として preferred に昇格。- GHAZ2012 の
ԿԷՏ ԴՆԵԼ、ԶԱՆՁՆ Ի ՄԱՀ ԴՆԵԼ、およびアガタンゲロス作品内のզանձն / զանձինս + դնել平行例が、語彙・句例面から同分析を補強する。 - 7
եղելոյは 8աշխատութեանと GEN.SG で結ぶ斜格過去分詞として維持するが、「単なる形容詞」より、非定形小述語的意味を保つ NFIN.07 型として説明を精密化。 - HMB2018/HAY2005 の通常の属格主語型では分詞が裸形であること、両方属格の absolute 型は Jensen で稀とされることから、通常の属格主語分析を主要 alternative から降格。
- 9–10
ուղւոյն ճանապարհացは ABR1976 が記述する同義名詞の属格付加として 採用。ուղի / ճանապարհの語彙的同義性と、§8երկայնուղւոյ ճանապարհացの作者内平行例が補強。 - 7–10 全体は「旅路・道程において生じた労苦の諸経験」→自然な本文読解では「旅路で味わった苦難の数々」とする。
- CALFA/NBHL
Ուղի項のեղելոյ脱落引用は資料観察として保持するが、Phase 2 frozen target を変更する根拠とはしない。 - 11–14 は、12
տարաբեր・13անդադար(ն)が 14սահանացを前置修飾し、その GEN.PL 句全体が 11զելեւէջսを限定する分析を preferred に昇格。 - CALFA/NBHL の引用では
տարաբեր անդադար սահանացնと冠詞位置が異なるが、この差は本文伝承上の軽い注記に留める。 - 18–19 は、
շահաւոր(ն) + աւգտութիւնの独立用例、գրաւական + GENの辞書用例、アガタンゲロス内部のաւգտութիւն属格限定例から、全体で 15գրաւականを限定する分析を preferred に昇格。 - 17
զանձինսACC.PL に対する通常の後置一致形容詞なら複数対格形が期待されるため、18շահաւորն→17 の分析は降格。 - 18 の
-նの厳密機能は細部注記に格下げし、主要 attachment は確定。 - 23–24 は
մրցանաց յաղթութեան=「勝利を目指す競い」とし、その GEN 句全体が 21կէտを限定する分析を確定。 - 5
սիրելեացは CALFA/NBHL のՍիրելի, լւոյ, լեացとպատմեմの与格受け手用例により DAT.PL と確定。 - 6・11 の対格列は、
պատմենの object domain に属しつつզայս վէպの内容を後置的に具体化する「説明的敷衍」として確定。A/B の排他的 residual は撤回。 - S005 substantive residual: none.
29 Retrieval Experience rules は文法根拠ではなく探索の呼び水としてのみ用いた。S005 ではとくに次が有効な注意点となる。
- 辞書 exact lookup が弱いが形態的に透明な語を unknown 扱いせず、語形成・曲用を再確認する。
- 句読点の後に定動詞のない対格・分詞・付加素材が続く場合、独立文を補わず、直前構造の列挙・省略継続を検討する。
- 過去分詞らしい形について、主語共有・副詞的用法を検討するが、表面上一致しない場合は即断しない。
ուղի / ճանապարհ、շահաւոր / աւգտութիւնのような意味近接語について、必ず別々の意味差を作る前に重畳・修辞的累積の可能性を確認する。
S005 はクローズ。 採用本文・逐語分析・構造図・本文読解・試訳を変更し得る未決点は残っていない。今後の再検討対象は、上記「細部注記」に挙げた文法ラベルや冠詞位置の説明を、参照文法全体の統一方針に合わせて精密化する場合に限る。
- Agathangelos, Պատմութիւն Հայոց, §1 S005.
- CALFA / NBHL —
վէպ,Սիրելի,անց,Աշխատութիւն,Սահանք,Գրաւական,Շահաւոր,կէտ,Մրցանք,Յաղթութիւն各項目。 - GHAZ2012 —
ԵԼԵՒԷՋՍ ԱՌՆԵԼ、ԶԱՆՁՆ Ի ՄԱՀ ԴՆԵԼ、ԿԷՏ ԴՆԵԼ各項目。 - ABE1936 —
դնելを含む目的語+述語的第二対格の記述(§174)。 - BAG1852 — 属格修飾語の語順・非隣接配置、斜格過去分詞の形容詞的用法、および §§714–718 の説明語・後置的内容具体化に関する記述。
- HAY2005 — 属格主語+過去分詞述語の基本語順、および裸形過去分詞の主語共有を示す用例。
- HMB2018 — §177:属格主語+過去分詞述語。§178:形容詞と名詞の一致、多音節前置形容詞の不変化、および後置説明語
բացահայտիչ。 - JEN1959 — §355:participium absolutum、とくに主語・分詞双方が属格となる稀な型の確認。
- ABR1976 — 同義・類義名詞の属格付加(
մարտ պատերազմի,զկամս ցանկութեանն等)。9–10ուղւոյն ճանապարհացの主要根拠。 - KOS1980 — 属格の状況的・場所的関係。9–10→8 の意味関係の補助根拠。形容詞に関係する属格限定の一般可能性も比較参照。
- PHR2020 — アガタンゲロスを含む
զանձն / զանձինս + դնել系の句例。 - Agathangelos §8 —
երկայնուղւոյ ճանապարհաց:ուղի + ճանապարհの作者内平行例。 - Agathangelos §3/§6/§722 —
աւգտութիւնを利益・効用の属格限定として用いる作者内平行例。 - Agathangelos §490/§862 — 総括的対格を後続対格で具体化する説明的敷衍・後置説明対格の作者内平行例。
- Agathangelos §594/§767 —
յաղթութեանを目標・賞・勝利の意味場で属格限定に用いる作者内平行例。
