アガタンゲロス『アルメニア人の歴史』 §8 第二文
原文
1Իսկ 2արդեաւք 3այս 4զիա՞րդ 5կամ 6ո՞րպէս 7գտանիցի 8ումեք 9վայրապար, 10եթէ 11ոչ 12ի 13մեծագնաց 14թանգարացն, 15որք 16եւ 17մեծն 18աշխատանաւք, 19երկայնուղւոյ 20ճանապարհաց 21զթոշակսն 22բաւեցուցին, 23եւ 24մեծաջանք 25եղեալ 26ի 27գտանել՝ 28զթագաւորս 29զարդարեցին։
試訳
「さて実際、この〔宝〕がいったいどのように、あるいはいかなる仕方で、誰かにただ漫然と見出されようか――高価な商人たちから〔得る〕のでなければ。彼らは大きな労苦をもって、長途の旅のための糧を十分に備え、さらに、それを見つけるため大いに骨折って、王たちを飾ったのである。」
Isk ardeawkʿ ays ziard kam orpēs gtanicʿi umekʿ vayrapar, etʿē očʿ i mecagnacʿ tʿangaracʿn, orkʿ ew mecn ašxatanawkʿ, erkaynułwoy čanaparhacʿ ztʿošaksn bawecʿucʿin, ew mecaǰankʿ ełeal i gtanel՝ ztʿagawors zardarecʿin.
| No. | 語形 | Romanize | 品詞・形態 | 意味・機能 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Իսկ | Isk | 接続詞 | 「さて/しかし」。S001 の宝石比喩を受けて反問へ転じる |
| 2 | արդեաւք | ardeawkʿ | 疑問・強意副詞、արդեօք の古い形 | 「いったい、本当に」 |
| 3 | այս | ays | 指示代名詞・主格単数 | 7の主語。「これ、このもの」 |
| 4 | զիա՞րդ | ziard | 疑問副詞 | 「どのように」 |
| 5 | կամ | kam | 選択接続詞 | 4と6を並列。「あるいは」 |
| 6 | ո՞րպէս | orpēs | 疑問副詞 | 「いかなる仕方で、どうして」 |
| 7 | գտանիցի | gtanicʿi | գտանել / գտանիլ・接続法第一未来、受動形3単 | 「見出されよう、見つかろう」 |
| 8 | ումեք | umekʿ | 不定代名詞・与格単数 | 見出す側の参与者。「誰かに」 |
| 9 | վայրապար | vayrapar | 副詞 | 「漫然と、たやすく、何の苦もなく」。辞書的中心義は「むなしく/無益に」 |
| 10 | եթէ | etʿē | 接続詞 | 11とともに例外的条件を導く |
| 11 | ոչ | očʿ | 否定辞 | եթէ ոչ「もし…でなければ/…以外には」 |
| 12 | ի | i | 前置詞 | 14の奪格複数を支配。「~から」 |
| 13 | մեծագնաց | mecagnacʿ | մեծագին / մեծագնի 系・斜格複数修飾語 | 14を限定。「高価な、高額の」 |
| 14 | թանգարացն | tʿangaracʿn | Թանգար「商人」・奪格複数+定冠詞 | ի + 奪格。「高価な商人たちから」 |
| 15 | որք | orkʿ | 関係代名詞・主格複数 | 14を受け、22・29の主語 |
| 16 | եւ | ew | 接続詞/強意 | 「また、しかも」 |
| 17 | մեծն | mecn | մեծ・前置形容修飾語+定冠詞 | 18を限定。「大きな」 |
| 18 | աշխատանաւք | ašxatanawkʿ | աշխատանք・具格複数 | 様態。「大きな労苦をもって」 |
| 19 | երկայնուղւոյ | erkaynułwoy | 稀な複合形・属格形相当 | 20–21の「長途の旅」領域を限定。厳密な内部係りは residual |
| 20 | ճանապարհաց | čanaparhacʿ | ճանապարհ・属格複数 | 21を限定。「旅・道の」 |
| 21 | զթոշակսն | ztʿošaksn | թոշակ・対格複数+定冠詞 | 22の目的語。「旅の糧・道中の備えを」 |
| 22 | բաւեցուցին | bawecʿucʿin | Բաւեցուցանեմ・直説法アオリスト3複 | 「十分にした、足りるよう備えた」 |
| 23 | եւ | ew | 接続詞 | 22と29の二つの行為を接続 |
| 24 | մեծաջանք | mecaǰankʿ | մեծաջան・主格複数、述語的 | 15の商人たちを説明。「大いに骨折る者となって」 |
| 25 | եղեալ | ełeal | լինել 系・過去分詞 | 24と非定形状況節を作る。「~となって/~であって」 |
| 26 | ի | i | 前置詞 | 27不定詞を導く |
| 27 | գտանել | gtanel | գտանել・不定詞 | 「見つけることに、探し出すことに」。目的語は文脈上宝石 |
| 28 | զթագաւորս | ztʿagawors | թագաւոր・対格複数 | 29の目的語。「王たちを」 |
| 29 | զարդարեցին | zardarecʿin | զարդարեմ・直説法アオリスト3複 | 「飾った」。主語=15 որք |
主節 RHETORICAL QUESTION [1–14]
Իսկ արդեաւք
այս
├─ զիա՞րդ
├─ կամ ո՞րպէս
└─ գտանիցի
├─ PARTICIPANT [8] ումեք
│ 「誰かに」
├─ MANNER [9] վայրապար
│ 「たやすく/漫然と」
└─ EXCEPTIVE SOURCE [10–14]
եթէ ոչ ի մեծագնաց թանգարացն
「高価な商人たちからでなければ」
関係節 [15–29]
որք → թանգարացն
│
├─ 定動詞-1 [22] բաւեցուցին
│ ├─ MANNER [16–18]
│ │ եւ մեծն աշխատանաւք
│ │ 「大きな労苦をもって」
│ └─ 目的語 [19–21]
│ երկայնուղւոյ ճանապարհաց
│ զթոշակսն
│ 「長途の旅の糧を」
│
└─ 定動詞-2 [29] զարդարեցին
├─ CIRCUMSTANTIAL 非定形 [24–27]
│ մեծաջանք եղեալ
│ ի գտանել
│ 「見つけるため大いに骨折って」
└─ 目的語 [28]
զթագաւորս
「王たちを」
自然な日本語訳
「だが、そんな宝が苦労もなく手に入るものだろうか。高価な品を扱う商人たちは、長い旅の糧を整え、多大な労苦を払って宝を探し求め、それによって王たちを飾ったのである。」
3 այս は直前 S001 の真珠・宝石を直接受けると同時に、その比喩対象である「霊的な者たちの徳・神を愛する者たちの偉大さ」を重ねて指すと読む。
S001 は「霊的な者たちの徳」を、完全な真珠、そしてインドから来る貴重な宝石にたとえた。S002 はその比喩をいったん文字どおりの交易世界へ押し広げる。
冒頭、
Իսկ արդեաւք այս զիա՞րդ կամ ո՞րպէս գտանիցի ումեք վայրապար
は明瞭な修辞疑問である。
2 արդեաւք は արդեօք の古い形で、疑問用法では「本当に/いったい」。7 գտանիցի は HMB2018 §114 がそのまま活用表に掲げる接続法第一未来・受動形3単である。3 այս が主語となり、
「さて、このようなものがいったい、誰かに何の苦もなく見つかるものだろうか」
と問う。
その答えは10–14の եթէ ոչ にすでに含まれる。
եթէ ոչ ի մեծագնաց թանգարացն 「高価な商人たちからでなければ」
つまり答えは否定である。S001 で語られた真珠・宝石は、そこらで偶然拾えるものではない。
14 թանգար は CALFA/NBHL で「商人、店主」。HMB2018 は本箇所の注で Մեծագին թանգարք を「高価な/高額の商人」と説明する。reader-facing では文脈に即して「高価な品を扱う商人たち」と自然化したが、これは解釈的な訳である。
15以下は、その商人たちがなぜ希少品を持ち得るかを説明する。
第一に、
մեծն աշխատանաւք երկայնուղւոյ ճանապարհաց զթոշակսն բաւեցուցին
大きな労苦を払い、長途の旅のための թոշակ「道中の糧・旅支度」を十分に備えた。
CALFA の Բաւեցուցանեմ 項はアガタンゲロス本箇所を、
Երկայն ճանապարհացն զթոշակն բաւեցուցին
と直接引用しており、「長い旅のための糧を十分に備える」という意味関係を独立に確認できる。
第二に、
մեծաջանք եղեալ ի գտանել
は25 եղեալ を中心とする非定形状況節である。主語は15 որք、すなわち商人たちと共参照する。մեծաջան は「非常に勤勉な、大いに骨折る」の意。したがって、
「それを探し出すため大いに骨折って」
と読む。27 գտանել の目的語は表出しないが、文脈上、真珠・宝石が回収される。
そして最終定動詞は、
զթագաւորս զարդարեցին 「王たちを飾った」
である。S001 の զարդարիցեն զթագաւորս「〔宝石が〕王たちを飾るであろう」を、S002 では商人たちの側から過去時制で言い換えている。
S001:
宝石 → 王を飾る
S002:
商人 → 長旅と探索
→ 宝石を得る
→ 王を飾る
比喩の本来の対象へ戻せば、著者の含意は明瞭である。霊的徳という「宝」は、偶然・安直には得られない。長い旅と大きな労苦を必要とする宝石と同じく、探求と労苦を経て初めて見出される価値を持つ。
1. ''արդեաւք'' — ''արդեօք'' の古形
CALFA は արդեաւք を արդեօք の古い形の一つとして示し、疑問用法を「本当に?/いったい?」と説明する。
ここでは4 զիարդ・6 որպէս と共起し、修辞疑問を強める。
2. ''այս ... գտանիցի'' — 接続法第一未来・受動形
3 այս は主格単数で、7の主語。
HMB2018 §114 は Ե խոնարհում・受動形の paradigma として、
գտանիցիմ գտանիցիս գտանիցի ...
を直接掲げる。
したがって7は 接続法第一未来・受動形・3人称単数。本脈では未来そのものより、
「どうして見出され得ようか」
という修辞的・モーダルな値が前面に出る。
3. ''ումեք'' — 見出す側の与格参与者
8は不定代名詞の与格単数。受動形 գտանիցի に対し「誰かに/ある者に」と、見出す側の参与者を示す。
4. ''վայրապար''
辞書の中心義は「むなしく、無益に」だが、同義系列には「表面的に、行き当たりばったりに、準備なしに」も含まれる。
本箇所は直後に商人の長旅と大労苦を対置するため、「漫然と、たやすく、苦もなく」という文脈義を採る。
5. ''եթէ ոչ ի ...'' — 修辞疑問内の限定
形式上は「もし…でなければ」だが、修辞疑問の中では、
「…以外のどこから得られようか」 「…からでなければ得られない」
という限定に近い働きになる。
6. ''ի մեծագնաց թանգարացն'' — ''ի + 奪格''
14は複数斜格形で、12 ի により奪格と判定。
HMB2018 は当該句を Մեծագին թանգարք と注し、CALFA は Թանգար を merchant / shopkeeper と定義する。
したがって source-near は 「高価な商人たちから」。文脈上は「高価な品を扱う商人たち」と自然化できる。
13 մեծագնաց の正確な lemma・屈折経路は通常 形態 parser が exact hit を返さないため、HMB の注 Մեծագին と CALFA Մեծագին / Մեծագնի の相互参照を根拠に扱う。
7. ''մեծն աշխատանաւք'' — 前置形容詞と具格複数
18は աշխատանք の具格複数。
HMB2018 §178 は、Grabar の前置形容詞について、後続名詞と常に同じ屈折を表面に示すとは限らないことを明記する。とくに前置多音節修飾語は無変化となり、一音節形容詞は屈折し得る。
したがって17–18を分離せず、「大きな労苦をもって」という一つの様態句として採用する。
8. ''երկայնուղւոյ ճանապարհաց զթոշակսն''
21 թոշակ は CALFA で「旅の糧、携行食、旅支度;給金」。
20 ճանապարհաց は属格複数で、21を限定する。
19 երկայնուղւոյ は通常辞書・形態 parser が exact analysis を返さない稀な複合形だが、CALFA の Բաւեցուցանեմ 項が本箇所を、
Երկայն ճանապարհացն զթոշակն բաւեցուցին 「長い旅の糧を十分にした」
と引用する。
9. ''բաւեցուցին''
22は Բաւեցուցանեմ、直説法アオリスト3複。
CALFA の語義は「十分にする、足りるようにする」。目的語21 զթոշակսն に対し、「旅の糧を十分に備えた」と読む。
10. ''մեծաջանք եղեալ ի գտանել'' — 過去分詞による状況構造
24 մեծաջանք は մեծաջան の複数形。「非常に勤勉な、大いに骨折る」。
25 եղեալ は լինել 系の過去分詞。15 որք の商人たちを暗黙主語として、
[որք] մեծաջանք եղեալ ի գտանել
「〔彼らは〕見つけることに大いに骨折って」
という状況的な非定形構造を作る。
HMB2018 §181 も եղեալ を含む句を定動詞に対する状況・様態的修飾として例示しており、本箇所も同型に読む。
27 գտանել の目的語は省略されるが、S001–S002 の宝石を回収できる。
11. ''զթագաւորս զարդարեցին''
28は対格複数、29は直説法アオリスト3複。主語は15 որք「その商人たち」。
「王たちを飾った」。
見つけた宝石を明示的な具格としては表さないが、談話から容易に回収される。
* արդեաւք … զիա՞րդ կամ ո՞րպէս … — 強い修辞疑問。「いったいどうして…だろうか」。
եթէ ոչ— 修辞疑問内で「…でなければ/…以外には」。ի + 奪格— 起点:「商人たちから」。մեծաջան լինել— CALFA/NBHL で「大いに努力する、懸命に努める」。ի գտանել— 「見つけることに/探し出すことに」。
* Agathangelos, Պատմութիւն Հայոց, §8 S002
- HMB2018 §64 — Reading 34 として本箇所を収録。
արդեօք այդ,աշխատանօք等の異表記を持つ。注6でՄեծագին թանգարքを説明。 - HMB2018 §114 —
գտանիցիを Ե խոնարհում・接続法第一未来・受動形3単の paradigm に直接掲載。 - HMB2018 §178 — 前置/後置形容詞の屈折と名詞修飾。
- HMB2018 §181 —
եղեալを含む状況・様態的修飾の実例。 - CALFA / NBHL —
Արդեօք,Թանգար,Մեծագին / Մեծագնի,Թոշակ,Բաւեցուցանեմ,Մեծաջան,Վայրապար。 - CALFA
Բաւեցուցանեմ— 本箇所をԵրկայն ճանապարհացն զթոշակն բաւեցուցինと直接引用。
