1նոքա 2դարման 3անկարաւտ 4լի 5ամենայն 6բարեաւք.
「彼らは、何ものも必要としない、あらゆる善きものに満ちた治療の手立て〔である〕。」
nokʿa darman ankarawt li amenayn bareawkʿ.
| No. | 語形 | Romanize | 品詞・形態 | 意味・機能 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | նոքա | nokʿa | 3人称代名詞・主格複数 | 主語「彼ら」 |
| 2 | դարման | darman | դարման・名詞、主格単数 | 集合的な述語名詞。「治療、癒やしの手立て」 |
| 3 | անկարաւտ | ankarawt | անկարօտ・形容詞、主格単数 | 2への後置修飾。「何ものも必要としない/事欠かない」 |
| 4 | լի | li | լի・形容詞、主格単数 | 2への後置修飾。「満ちた」 |
| 5 | ամենայն | amenayn | 全称量化詞/代名詞的形容詞 | 6を量化。「あらゆる」 |
| 6 | բարեաւք | bareawkʿ | բարի・名詞化形容詞、具格複数 | 4 լի の補部。「善きものすべてで」 |
主語 [1] նոքա
「彼ら」
│
└─ 繋辞を省略した名詞述語
[2] դարման 主格単数
「治療/癒やしの手立て」
├─ 修飾語 [3] անկարաւտ 主格単数
│ 「何ものも必要としない」
└─ 修飾語 [4] լի 主格単数
「満ちた」
└─ 補語 [5–6]
ամենայն բարեաւք 具格複数
「あらゆる善きもので」
「彼らは、何ものにも事欠かず、あらゆる善に満ちた癒やしの手立てである。」
繋辞は原文に補わず、訳文では日本語のコピュラ「である」として明示する。
S001–S003 は կարաւտ / կարօտ「欠乏・必要」の語根を連鎖させる。
S001 զկարաւտս
「欠乏する者たち」
→ երկնաւոր առատութեամբ
「天上の豊かさで満たす」
S002 աշխատութեան կարաւտելոցն
「労苦を必要とする者たち」
→ հանգիստ
「安息を備える」
S003 դարման անկարաւտ
「何ものも必要としない治療手段」
→ լի ամենայն բարեաւք
「あらゆる善に満ちた」
つまり S001 の「欠乏する者」から、S002 の「~を必要とする者」、S003 の 「必要を欠いた/何ものも必要としない救済手段」へ、語根を反復しながら欠乏が反転されてゆく。
さらに直後 S004 は、
նոքա կարեն տալ բժշկութիւն առանց դեղոց խնկոց արմատոց 「彼らは薬・香・根なしに治癒を与えることができる」
と続く。
したがって S003 の անկարաւտ は抽象的な「自足」だけではなく、通常の治療なら必要とする外的資材に依存しないという S004 の内容を先取りしている。
2 դարման も CALFA / NBHL の「remedy / cure / care / provision」のうち、この局所文脈では 「治療・癒やしの手立て」を中心義として採る。
この文には明示的な定動詞がない。1 նոքա「彼ら」を主語、2 դարման「治療・癒やしの手立て」を述語名詞とする現在時の名詞文である。
նոքա դարման 「彼ら」 「癒やしの手立て」 主語 述語名詞
Grabar では現在時の名詞文で繋辞が省かれることがあり、主語が複数でも、複数の者を一まとまりとして述べる集合的な述語名詞は単数形を取りうる。
2 դարման、3 անկարաւտ、4 լի はいずれも主格単数で、後置形容詞が被修飾語と格・数をそろえる通常の形になっている。
դարման ├─ անկարաւտ │ 「何ものも必要としない」 └─ լի 「満ちた」
したがって全体は「何ものにも事欠かず、満ち足りた癒やしの手立て」という一つの名詞句を作る。
4 լի「満ちた」は、何に満ちているかを具格で表すことがある。6 բարեաւք は բարի「善いもの」の具格複数で、5 ամենայն がこれを量化する。
լի ամենայն բարեաւք 「あらゆる善きものに満ちた」
KOS1980 にも լի が具格補語を取る用例があり、同作品にも լի եւ անկարաւտ という近い組合せが見られる。
PHR2020 / GHAZ2012 を局所確認したが、S003 全体を固定句として一括処理すべき直接項目は確認できなかった。
GHAZ2012 には դարման տանել「世話する、手当てする」があるが、本箇所はその構文ではない。
したがって S003 は、
դարմանանկարաւտ, լիլի + 具格の合成的構造として読む。
* Agathangelos, Պատմութիւն Հայոց, §9 S003
լի եւ անկարաւտ の意味連接。լի+具格。Դարման — cure / remedy / care / provision。Անկարօտ — not in want / not indigent;不足のなさ。Լի — full;具格補部を伴う多数の用例。Բարի — good / good things。լի գործովք բարեօք の独立平行。դարման տանել は確認したが本箇所には非該当。