1Արդ՝ 2ելից 3ի 4մտաց 5երիվարն, 6եւ 7յարմարեցից 8զասպարէզն 9հանճարոյ.
「さて、思考の駿馬に乗り、才知の競走路を整えよう。」
Ard, elicʿ i mtacʿ erivarn, ew yarmarecʿicʿ zasparēzn hančaroy.
| No. | 語形 | Romanize | 品詞・形態 | 意味・機能 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Արդ | Ard | 副詞・談話標識 | さて、そこで |
| 2 | ելից | elicʿ | 動詞 ելանել・1人称単数・第二未来 | 私は乗ろう |
| 3 | ի | i | 前置詞+対格 | ~に、~へ |
| 4 | մտաց | mtacʿ | 名詞 միտ・属格複数 | 思考の、知性の |
| 5 | երիվարն | erivarn | 名詞 երիվար・対格単数・定 | 駿馬に;ի の支配語 |
| 6 | եւ | ew | 接続詞 | そして |
| 7 | յարմարեցից | yarmarecʿicʿ | 動詞 յարմարեմ・1人称単数・第二未来 | 私は整えよう、設えよう |
| 8 | զասպարէզն | zasparēzn | 名詞 ասպարէզ・対格単数・定、զ- 付き | 競走路・競技場を;直接目的語 |
| 9 | հանճարոյ | hančaroy | 名詞 հանճար・属格単数 | 才知の、知性の |
Արդ
「さて」
│
└─ [私は]
│
├─ ելից
│ 「乗ろう」
│ └─ ի [մտաց երիվարն]
│ 「思考の駿馬に」
│
└─ եւ
└─ յարմարեցից
「整えよう」
└─ զասպարէզն հանճարոյ
「才知の競走路を」
§14 の末尾で作者は「これらすべてを一つ一つ語ろう」と宣言した。§15 冒頭では、その叙述開始が単なる「書き始める」という表現ではなく、騎手が競走へ出る像に置き換えられる。
対になっているのは、
մտաց երիվարն
「思考の駿馬」
↓
ասպարէզն հանճարոյ
「才知の競走路」
である。「思考」と「才知」という抽象語が、それぞれ「駿馬」と「競走路」に結びつき、歴史家自身が知的な競走へ乗り出す騎手として描かれる。
これは序文前半の航海・競走の比喩とも響き合う。歴史探求はこれまで、危険な航海や大きな労苦として誇張して語られてきた。その文脈を考えると、ここにはもう一つ遊戯的な響きが潜む可能性がある。
ի մտաց ելանել という語結合には、実際に「正気を失う、錯乱する」という慣用がある。そのため ելից ի մտաց … までを左から読むと、この意味が一瞬想起されうる。しかし文法的な構造は、
ելից ի [մտաց երիվարն] 「思考の駿馬に乗ろう」
であり、「正気を失う」は採用構文ではない。
したがって、「この困難な歴史探求に乗り出すのは正気の沙汰ではない」とでもいう自己戯画的な二重の響きを作者が意図した可能性はあるが、これは断定せず、補助的な修辞的読みとして留める。
ելից と յարմարեցից — いずれも1人称単数の第二未来。HMB2018 は第二未来が単なる未来だけでなく、願望・意志・条件・義務などの modal value を文脈によって持ちうるとする。本箇所では並列された1人称形なので「~しよう」と読む。ի [մտաց երիվարն] — ի は երիվարն を対格で支配する。մտաց はその内部で「駿馬」を修飾する属格。「思考から」ではなく「思考の駿馬に」である。ի մտաց երիվարն の語順は問題にならない。ելանել ի ձի — 「馬に乗る」を表す実在の語法。GHAZ2012 に Ի ՁԻ ԵԼԱՆԵԼ「馬に乗る」が収録される。ここでは ձի の代わりに比喩的な մտաց երիվարն「思考の駿馬」が置かれている。զասպարէզն の զ- — յարմարեցից の直接目的語。BAG1852 は限定された直接目的語で զ- を基本とする。対して երիվարն には զ- がなく、これを ելից の直接目的語とする読みには不利である。ի մտաց ելանել との区別 — 「正気を失う」という慣用自体は存在するが、本箇所では constituent boundary が異なる。慣用句の文字列一致と、実際の統語構造を区別して読む必要がある。ի + 対格 の方向・到達点等の用法。զ- 標示。Ի ՁԻ ԵԼԱՆԵԼ「馬に乗る」;Ի ՄՏԱՑ ԵԼԱՆԵԼ「正気を失う、錯乱する」。